黄瀬くんの片思い







セックスなんて、きもちいかきもちくないかのどっちかだと思ってた。

でもオレの大事な友人はいつもつらそうに「だれか」に抱かれて戻ってくる。
オレとしてはそんな悲しい顔見たくねーし、正直、意味が分からなくて「何でキツイ思いまでして抱かれんの」ってあるとき聞いたんだ。



そしたら、彼は見たことないくらい綺麗に笑って。





「好きだからだよ」





そう、答えた。
そのときの声と笑顔は、今も脳裏に焼き付いて離れない。










「ねー青峰っちー」

「あ?」

「ちょっと浮気してきてもいいっスか?」

「ブファ!!なっ、んだ急に意味わかんねーんだけどつかそもそも付き合ってねえよ!!」





はいはいそーっスよねオレらただのセックスするオトモダチっスもんね。
人ん家で勝手に人のゲームをプレイしてる青峰っちに声を掛けたら、大袈裟にこっちを振り返った。
そこまで本気で否定しなくてもいいのに。





「オレの友ダチが傷心なんスよ……悪いオトコに捕まって」





わざとらしく嘆いてみせたら呆れたようにため息をつかれる。





「はあ?……それとオマエの浮気発言がどう関係すんだよ」

「いや、そいつが相手が好きだからツラくても抱かれるってんで、じゃあ違うヤツに快楽に流されて一回抱かれてみたら?って話になって」

「内容がアホまっしぐらだな」

「ちょ、至って真面目っスよ!!」





青峰っちにだけはアホとか言われたくない。
って言ったらたぶん殴られそうだから口には出さないけど。

膨れつつも話を続ける。





「大体、相手には本命がいるらしいんスよ。なのになんでわざわざそんなヤツのこと好きでい続けるんスかねー」

「好きに理屈なんてねえだろ」

「……青峰っちがカッコイイこと言った」





あ、やべ、失言。と思った矢先に思いっきり頭を叩かれる。
すぐ人叩くのやめてほしい。オレMじゃないんスから。





「でもあんなん不毛っスよ。本命いるヤツに抱かれるとか相手の欲求解消に付き合ってあげてるだけじゃん」





痛む頭を擦りながら言えば、青峰っちが少し意外そうに目を見張った。
なんスかその顔。

オレはどっちでもヤるから、そいつにネコ側のしんどさ分かってんのか聞きたくなるのも仕方ないってもんでしょ。





「黄瀬、オマエさ」

「?なんスか」





すっかりゲームからは意識が外れたらしい。
濃紺の瞳がオレをまっすぐ見つめてくる。





「そいつのこと、好きなんじゃねーの?」

「は??」





そいつ、って。
どいつ、っスか。



意味が分からず首を傾げたら、青峰っちはあからさまに眉を寄せた。
たぶんいま、オレもおんなじような顔してると思う。





「そのオトモダチ」

「はあ?何言ってんスか!アイツはただの友達で……」

「ふーん、まあ今は、ってとこか?」

「今もなにもこれからもずっと」

「でもヤるつもりなんだろ?」





一々オレのセリフを遮ってくる青峰っちがサラリと告げた内容に、一瞬詰まる。





「…っもしセックスしたとしても、友達っス」

「ククッ……そいつ抱いたらもう戻ってこれねーだろうな、オマエ」





ニヤリと悪い笑みを浮かべた青峰っちの言葉の意味を、このときのオレはよくわかっていなかった。








(彼は、大事な友達)



(13/2/21)




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