捕り愛
「欲しいなら、奪ってみたら?」
挑発的な視線に、思わず笑みが零れる。
この四面楚歌の状況でこれだけ横柄に振る舞う辺り、流石巷を賑わせる賊の幹部なだけある。
「笑わせんな、もうオマエはオレのもんだろ」
「は?やだなー。そう簡単に他人のものにはならないすよオレは。海軍に尻尾降ってる腰抜けサン方のもんなんかには、特に、ね」
「黙れ、刺すぞ」
「へぇ……じゃ、刺してみたらどうです?」
「……ハ、」
ファイアオパールみてーな光を放つ二つの瞳。
それが欲しいと思ったのは、もう本能だ。
得物を鞘に戻し、手首を掴む。
思っていたよりも細かったそれに僅かに驚きながらも素知らぬ振りで引き寄せれば、距離が近くなったことでその眼の中に宿る闘争心や攻撃性が露になる。
『鷹の眼』とかどっかで聞いたような通り名を持つらしいだけあって、眼力やべーな。
「武器もない、仲間もいない……そんな状況でどうすんだよ、なぁ?」
我ながら悪どい笑いを浮かべてると思う。
ただ、絶望なんて知らねえみたいな顔してるコイツが、どう崩れていくのか。見てみたい。
崩してみたい。
そのあとで、崩れきってすがりつくものを全部なくしたときにオレのものにして。
コイツの存在そのものを奪う。
なかなかに魅力を感じることだ。
今まで抱いたことのない感情にオレ自身僅かに振り回されながらも、この手を離そうとは思わなかった。
「簡単に従われんのも、面白くないからな」
そういえばそんなことを言ってた頃があったな。とか。
甲板で仲間とはしゃぐアイツの姿を見て思わず溜め息が零れる。
いや、馴染みすぎだろオマエ。
「……ハァ」
「溜め息なんてついてたら、幸せ逃げちゃいますよ?」
「うっせ」
振り仰げば青と黒のコントラスト。
太陽をバックにそれに負けないくらいの笑みを浮かべたタカオ。
「オマエさ…誰のもんにもならねえんじゃなかったのかよ……」
溜め息混じりに尋ねれば、毒気の無い表情で見つめ返される。
その瞳に宿っている輝きは出会ったときと変わらない。
漠然と欲しい。そう思わせる、強い光。
「え、もしかしてミヤジサンのもんになったとか思われてます?ぶはっ!ちょ、冗談……っ」
「はぁぁ?!オマエ、もう立派にこの船の人間じゃねーか!!」
「それでも、オレはオレだけのもんですよ、ミヤジサン」
「……は?」
「オレはね、何にも囚われない。自由に生きたいんです」
にっこりと、人好きの笑いを見せたあとに、タカオはイタズラっぽく唇に弧を乗せた。
「まぁ……ミヤジサンになら捕まってもいいかなぁ、なんて思わなくもないんですけど」
「……ッ、おま、」
「せいぜいがんばってタカオちゃんを虜にさせてみてくださいね〜」
伸ばした手はひらりと交わされた。
ムカついたからそのまま後ろから抱き締めてやったタカオが顔を真っ赤にさせて、オレまでつられて二人で赤面するはめになるなんて。
夢中で手を伸ばしたそのときのオレが、知るヨシもない。
(あまりにもオマエは自由に羽ばたくから、手に入れたくなる)
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