重なる花弁



「……え、何事?」





マンションのドアを開けた和成の第一声はそれだった。
きょとんと瞬いてこちらを見つめる様子に自然と笑みが浮かぶ。





「これを、受け取ってくれるか?」

「え、あ、うん。くれるなら喜んで貰うけど……今日って何かの記念日だった?」

「いや、……」





これから、記念日になる予定だよ。
とは敢えて告げず。
ボクの含み笑いに首を傾げながらも差し出した薔薇の花束を受けとる。
白と赤のコントラストが美しく、和成の黒髪がより一層それを引き立たせているように見えた。





「……。赤司のことだから何か意図があるパターンでしょ」





確信めいた言葉に「そう思うのか」と否定も肯定もせず更に笑みを深めたら、今度は逆の向きに首を傾げる和成。
まるで小動物のような動きだな、と関係無いことを思う。
さて、勘の良い彼だが。
この花束の意味するところに気づくだろうか。





「薔薇って言ったら確か告白とか、そういうの聞いたことあるけど、オレらもう付き合ってるしそれはなしだろ?」

「そうだな」

「色によって違うって聞いたことはあるなぁ……でもこれ普通に赤と白だよね……ん?……白?」

「そう、赤と白だ」





各色十本ずつの、ボクが予想した以上にわりと小さめの花束。
和成は腕のなかのそれをもう一度慈しむように見つめたあと、まるでその花の色に当てられたかのように頬を染めた。





「……あの、これ……もしかすると、もしかしちゃう感じですか、赤司さん」








ああ。

愛しいな。





はにかむ和成との距離を零にして、一瞬唇を重ねる。
逸る心は、今まで知らなかった感情。








「『ボクは、おまえに相応しい』」





「おまえに『永遠の愛を』」





「赤と白の薔薇の花束の花言葉は」








一つ呼吸を挟んだとき、和成が息を飲んだのが分かった。








「『結婚してください』」








(そして蕾が花開くように、笑顔が咲いた)












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