きっとそれが幸せ




「ここ、間違ってる」

「ほんとですね……ありがとうございます」





そっと示された箇所を消しゴムで擦る。
静かな図書館内では隣の席に座る高尾君の呼吸さえも手に取るようで、人知れず速まる鼓動に僅かな心地好さを覚える。
今だけは、彼を独占しているような、そんな感覚。





「手、止まってっけど」

「……あ」

「……黒子の目ってほんと、透き通ってるよなぁ。そんなに見つめられたら高尾くん照れちゃうっ、なーんて」

「えっと、そんなに見てましたか?すみません」

「ブフォ!ちょ、マジレスするとこじゃねーから!」





愉しそうな笑みにボクまで嬉しくなる。
といっても、彼はいつも楽しそうではあるのだけど。

図書館ということもあってか、声を殺すように笑う高尾君。
終いには机に突っ伏してしまう。
そんなに面白かったのだろうか。





「あの、高尾君……」

「……、っはぁ笑ったー……ごめんごめん、何?」

「いえ……時間は大丈夫ですか?」

「うん、まだへーき」





実のところ、待ち合わせた訳でも約束していたわけでもないこの嬉しい偶然の時間。
高尾君はこのあと近くで用事があるらしく、調度図書館に入る所だったボクを見つけて、こうして勉強に付き合ってくれている。
たまにしか会えないからこそ偶然出会えたときの喜びは言葉に出来ないくらいだ。
視線を上げてもう一度彼を見つめると、小さく首を傾げながら「ん?」と優しい笑みを浮かべてくれる。





「高尾君は、本当にカッコいいし、可愛いですよね」

「はぁっ!?……あっ、」





慌てたように両手で口を塞いだ彼から、じっとりとした視線を貰う。
思わず零れた笑みに高尾君は「なにその不意打ちズルい…」と目を伏せた。
ほら例えばそういう些細な仕草だったり、紡ぎ出す言葉だったり。
彼の細胞から産み出されるひとつずつのものに意識が引き寄せられていく。





「高尾君」

「……なに?」





未だに俯いて影を落とすその唇にそっとキスをする。
一度離れて、もう一度、角度を変えて重なる。
言葉のない会話のように、零に近い距離で、ボクらは微笑みあった。





「黒子もさ、自覚ないかもだけど……可愛いし、カッコいいと思うよ」

「じゃあ、お揃いですね、ボクたち」

「ふふ、そーだな」





暖かい日射しに包まれてキミと過ごす。
ただそれだけの、幸せ。








(触れて、伝わる。見つめる、重なる)












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