湖面
(※桜高幼馴染み)
(※あまり明るくないかもですすみませんすみません)
ボクにとって、彼の言葉はまるで魔法だった。
『ダイジョーブ!良ちゃんならできるから』
彼がそう言えば何だって出来る気がしたし、
『良ちゃんのこと、大好き』
彼がそう言って笑えば、世界中の人から嫌われても平気とさえ思った。
彼と居られることが幸せだった。
彼が隣で笑ってくれることが、その笑顔を見ることが、ボクの存在理由の全てだと思っていた。
「……え、……しゅ、秀徳……?」
「うん、良ちゃんは確か桐皇って言ってたよな?」
「あっ、その……ボクは、」
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
和成君と違う学校だなんて、そんなの。
言葉にならない叫びが喉を震わせた。
「か、和成君は、何で……秀徳に?」
ひきつりそうになる頬を隠すように俯きがちになりながら、言葉だけはどうにか紡ぐ。
彼はきっと、気づいている。
彼の広い視界は、きっとボクのこの臆病な感情を捕らえている。
嫌われたくない。
でも、傍に居たい。
それだけでよかったんだ。
お願いだからどうか、ボクを、突き放さないで。
「前に一緒に学校見学行ったじゃん?その時に……ああ、ここで、秀徳でバスケしてえなって思って」
「……っ、」
「良ちゃんは桐皇で、オレは秀徳で、場所は違っても向かうところはおんなじだろ?」
ボクの大好きな笑顔で、和成君は告げる。
でも、そうじゃない。
場所とか、向かう先とか、そんなんじゃない。
隣に、キミが居なければ。
「ち、がう……っ、ごめんなさい…っ違う、違うんだ、ごめん、…ボクは、それじゃ、ダメで……ッ、和成君がいないと……!」
「良ちゃん、聞いて、大丈夫だから、ほら」
「……っ」
ふわりと包み込まれた温もりに、一気に強張っていた筈の全身の力が抜けていく。
やっぱり、和成君の言葉は魔法だ。
早鐘を打っていた心臓が、ゆっくり落ち着いていくのが分かる。
その愛しい背中に腕を回すと、少し擽ったそうに彼は身を捩った。
「……ごめ、」
「大丈夫、な?良ちゃん」
「……」
深く息をすれば、和成君の優しい瞳に気づく。
顔を上げるだけの余裕が生まれて、揺らいでいた感情の波が凪いでいくのが分かる。
「……ボクは、和成君が、隣にいなきゃ、ダメだ」
「……確かにオレら、ずっと一緒だったからなー」
「これからも、ずっと傍に居たいよ……」
「いるよ。物理的な距離とか、関係ない」
「……、え?」
即答されて、思わず離れて和成君を凝視した。
きらきら眩しい笑みを、まっすぐに見つめる。
目を反らすなんて出来ない。
いや、反らしたくなかった。
「良ちゃんが会いたいってときは、会いに行くし。離れてても心が寄り添ってりゃ一緒だってオレは思うから」
「……でも、」
「オレは良ちゃんが好き、大好き。だから、ずっと、一緒。……良ちゃんは?」
「……っ、…」
何か、言葉にならない何かを言い掛けて、そのまま和成君の唇を衝動に任せて呼吸ごと奪い取る。
「……っ、ご、ごめん……!」
覆い被さったことで影を帯びた橙の瞳。そのすぐ下で、彼の唇が綺麗な弧を描いた。
「いいよ。不安なら証明してあげる」
ああ、まるで、優しい魔法に包み込まれるようだ。
差し伸べられた両腕を絡めとり、重なる唇。
信じられない。
でもきっと和成君は、信じさせてくれるんだ。
この幸福を。
この愛を。
ほら、キミの言葉はいつだって。
終わらない、ボクだけの魔法だから。
(あいしてる。ずっと、永遠に、心は傍に)
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