朝、キッチンにて




些細なことで幸せを感じられるようになれば、それは愛の安定期かもしれない。

なーんて、菜箸片手にソファで新聞読んでる真ちゃんの後ろ姿を見つめて思う。
一緒に暮らし始めてもう随分と長い時間が過ぎたけど、オレ達の恋は変わらずに波打ち際の砂のような穏やかさを保ち続けている。
柔らかく、行ったり来たり。

朝ごはんを作るのは職業柄出勤が比較的遅めなオレの仕事。
スーツを着こなす真ちゃんは学生時代のようにはしゃがなくなっちゃったけど、(え?もともとハシャイでなかった?いやいや、結構ハシャイでたって!)その傍らにあるラッキーアイテムは健在だ。
未だにそのシュールな絵面を見るたび笑ってしまうオレもオレなんだけど。





「真ちゃん、そういえば今日さぁ」

「ああ」

「オレ帰りに黒子んトコ寄って来るから、いつもよりちょっと遅くなるかもー」





冷ましといたマカロニと野菜をドレッシングでサッと混ぜ合わせて器に盛り付ける。ベーコンエッグはしっかり火を通すのが真ちゃんの好み。
さっき炊飯器が鳴ってたからパンも焼き上がったみたいだし、作り置きのブルーベリージャムを冷蔵庫から出してテーブルに運ぶ。
パンを食べやすくスライスしたら、さてあとはスープだけかとコンロの方へ移動しようとしたとき。

ふわりとお揃いの柔軟剤の香りが鼻を擽って、後ろから包み込まれるように抱き締められる。





「真ちゃーん、せっかくの焼きたてパンが冷めちゃう」

「帰りは何時になる予定だ?」





すり、と寄せられた唇が首筋を掠めてくすぐったい。
少し身を捩りながら、綺麗な緑色の頭をよしよしと撫でてあげる。
わずかに動いた視線がオレのすぐにとぶつかった。
深い翡翠色が朝の陽射しを受けてきらめく。





「言っても八時位にはお暇してくるつもりだから」

「……なら迎えに行くのだよ」

「いいの?」

「久しぶりに外で食事も悪くないだろう」

「あ、じゃあ前に言ってたトコ行こうぜ」





笑顔の真ちゃんにキスをされ、オレは応えるように笑った。



こうやって、ひとつひとつ。
これから先の未来も、細やかな幸せが繋がってオレ達だけの愛を紡いでいけたらいいと思う。



もう一回キスを送ってから離れたら、少しだけ名残惜し気に真ちゃんは眉を寄せた。





「さ、朝ごはんにしよっか」





続きは夜ね、と微笑んだら。

ほら、
今日も、一日がはじまる。








(今日も、素敵な一日になりますように)







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