あれ?
「あ、黒子と火神じゃん、おつかれさん!」
「お疲れ様です、高尾君。それに緑間君も」
「んだよ、オマエらも今から風呂か?」
「貴様には関係ないのだよ、火神」
「あああん?!」
廊下で出会したのは、偶然合宿先が被った秀徳の二人。
気さくに声を掛けてくれた高尾君とは正反対に、どのみち目的地は同じなのに火神君に明らかな敵対心を向けている緑間君。
それに直ぐ噛み付く火神君もどうかと思うけれど、そんな二人を見て爆笑している辺り、高尾君は止める気は更々ないらしい。
ため息をついてからボクは隣の彼の腕を軽く引く。
「火神君、入浴時間は決まっています。早くしないと入り損ねますよ」
「、おう……」
「な、折角だし一緒に行こうぜ」
人数多い方が楽しいっしょ。
そうやって笑う高尾君はボクとは反対側に回り込んで、火神君の手を引く。
そのまま歩き出した彼に緑間君が声を掛けるけど笑ってかわされて。渋りつつも結局ついてくるのが分かった。
ああいったタイプの扱いを心得ているな、と感心する一方で、何か言葉に出来ない違和感のようなものを感じたのだけれど。
ボクが見ていることに気がついたのか、高尾君から眩しいくらいの笑顔を向けられてしまい、その違和感は霧散してしまった。
◇◇◇
「やっぱ広い風呂っていいよなぁ!」
「高尾、あまりはしゃぐと怪我をするぞ」
「うん、真ちゃん心配してくれてありがとでもそれ黒子だからね?」
そんなやり取りを交わしながらシャワーの前まで来て頭を洗っていると。
ふとまた違和感を感じて隣を見やる。
「……え、何してるんですか、火神君……」
「あ?」
「いや……何然も当たり前のように高尾君の髪をシャンプーしているんですかキミ……」
イスを縦並びにさせて高尾君の頭をわしゃわしゃしている火神君に不信感に満ちた視線を送ってしまったボクは悪くないと思う。
ていうか本当にマジで何やってるんですか?
「あ、ダメだかんな黒子!火神は今オレのだから!今だけは譲れないから!」
「え、いや別にいりませんけど……」
そう言うことじゃない。
「あっ、バカ高尾!あんま動くんじゃねーよ!」
「ぎゃーっ!目に入った!!」
「ったく、おら、こっち向け。拭いてやっから」
「んー……優しくしてね?なーんてな」
「ハイハイ」
何かおかしいことは明らかだったけど、ボクの抑止力では彼らの行動を止めるツッコミは出来なかった。
メガネなしの緑間君が使い物にならない上、ボクは無力だ。
「じゃ、今度はオレが背中洗うから火神、前座って!」
「おー」
繰り広げられる現状をなるべく視界に入れないように、ボクは自分の事に集中しようとシャワーを手に取る。
大丈夫、時間が解決してくれるはず。
よく分からない暗示を、心で呟きかけて。
ハタと気づく。
「……あれ?」
「どした?黒子ー」
火神の背中をわしゃわしゃしていた高尾君が、嬉しそうな笑顔のままこちらを向く。
ボクもそちらを向けば、赤とオレンジ、暖色の瞳四つと視線がぶつかった。
「君達って、もしかして付き合ってます?」
え、うんそうだけど。
そう言ってからりと笑う高尾君は、この場にはボクたちだけでなく誠凛や秀徳の先輩たちがいることに気づいていないんでしょうか。皆固まってるんですが。
ていうかボクも聞くタイミング間違えた。
上手く火神君が誤魔化してくれるかと言葉を促すような視線を彼に向けたことを、瞬間的に後悔する。
「なっ、何でバレたんだ……!!!?」
「いやむしろ何でバレないと思ったか小一時間問い詰めてもいいですか?」
違和感の正体が、露見した瞬間。
(知らぬ間に、チームメイトとライバルがお付きあいしていました)
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