ままならぬ、






放課後である。

つまり「高尾先生と二人きりで補講」という最高のシチュエーションに突入する時間帯。
それ即ち、オレが先生を誘惑し放題アプローチし放題な時間帯である。





「なのに何で……」

「?黄瀬くん、大丈夫?頭痛いの?」

「いや、大丈夫っス……頭悪いだけだから」

「それ全然大丈夫じゃないよね」





何で仲良くテキスト広げて真面目に補講受けてんのオレ。
頭に軽くチョップをくらってももう可愛いとしか思えない程度に先生に夢中なのに、先生はオレよりも補講に夢中。
どこの少女漫画だよ…。
スマートに自分のペースに持っていく事なんて容易いはずだったのに。
なぜか先生にはそれが上手くいかない。
だけどめげたりしないっスよ!





「、何でなんスかねぇ……」





伏し目がち、からの流し目。
モデルの本気を見せてやれと少し微笑むのも忘れない。





「あ、この証明?確かにパッと見た感じ何でそうなるか分かんないけど、」

「違うから先生、今!テキスト見るとこじゃないから!!オレの華麗な流し目!!オレの顔見てトキメクところ!!」

「え?あ、流し目の練習中なの??ならやる前に言ってくんないと先生気づかなかったよ、あははー」





流し目の事前報告ってなんだ。
だっせーにも程がある。
でもそんな文句も先生の笑顔にほだされて流されてしまう。

って、まてまてまてオレ。
今までこのパターンで何回流されてきた。
今日こそ意識してもらうって決めて来たんじゃないか。
ここでやらねば男が廃る。





「……っ、高尾先生!」





思いきって、その小さな両手を包むように握り締める。
まっすぐに見つめたら、先生の綺麗な瞳のなかに見たことないくらい真剣な顔をしたオレが映り込んでいるのが分かった。





「はい、何か質問ですか、黄瀬くん」

「……、先生に、好きになってもらうには、どうすればいい?」

「……」





ねえ。
教えてよ、先生。








「黄瀬くん、」





キョトンとした表情が、徐々に和らいで、先生が嬉しそうに笑うから。





オレはここが教室ということも忘れてその手を引き寄せようと、





「勉強しよう!」

「は?」





引き寄せようと、した、手は。
あっさりとテキストへと戻っていった。
テキスト、ぜったい卒業したら破ってやるから覚えておけ。





「え、ちょ……なんでここで、勉強……?」

「学校の先生達に好きになってもらうには、やっぱり真面目に勉強に取り組む姿が好印象だって!」

「先生、たち?」

「黄瀬くん、前に学校の先生が苦手って言ってたから……私、嬉しいよ」

「……っ」





さっきまでテキストに抱いていた怨恨もその天使のような笑みに浄化されていく。
やっぱりオレ、先生のこと、大好きだ。

この想いを伝えて、先生に受けとめてもらうには、まだまだ時間が掛かりそうだけど。
それも悪くない。





「それに、がんばって補講に取り組んでる黄瀬くん、カッコいいと思う」

「へっ?」

「だから一緒にがんばろう!」





先生の笑顔がタダでついてくるなら、補講なんて楽なもんだから。

そうキメ顔で高尾先生に笑い掛けたら宿題のプリントを山のように手渡されたのは、先生なりの照れ隠しだったと疑ってないスよ!








(放課後補講タイム!)


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