「ぶふぉ!ちょ、やっべ、雪!!やべぇ!」

「笑い事じゃねぇだろ……」

「あ、宮地サンお疲れさまでっす」





ちょうど校門に差し掛かった辺りで見覚えのある背中を見つけて思わず声を掛けてしまった。
喜色満面な高尾はチャリを押しながらはしゃいでいる。
その黒い頭にも進行形で雪が降り注いでいるわけだが。





「高尾、頭やべーぞ。ていうかオマエ、あれ、緑間は?」

「ちょ、宮地サンその言い方だとオレ気違いみたいじゃないですか。ちなみに緑間なら人事を尽くして早退しました。さすがおは朝、天気予報もバッチリらしいすね」

「緑間はともかく……この雪のなかチャリ押してる時点で結構キてるようには見える」

「ぶはっ!わざとじゃないんですから勘弁してくださいよ〜」





あとへらへらした感じが拍車をかけてるから。
それは口には出さなかったけど、後輩は罵られても気にもせず「宮地サンはちゃんと傘持参してたんすね!」と笑う。
何か毒気が抜かれて、その黒髪に乗っかった雪を手で払ってやった。





「……、おら、帰んぞ」

「へ?」





手にしていた傘をぐっと高尾に押し付け、オレ自身は高尾のチャリのハンドルを奪い取り歩き出す。





「え、ちょ、宮地サン…っ?」

「オレが濡れないようにしっかりさしとけよ」

「えっ、傘持つの宮地サンで良くないですか?」

「ああん?オレにチャリ押す男に傘をさしてあげるとかそんな女子みたいなことしろって?」

「えええ…傘さしてあげるのってそんな女子っぽいですかね……?」




不思議そうにしながらも言われたとおり懸命に腕を伸ばしてオレが濡れないように傘を持ち上げる高尾。
こいつのこういうところがあざといと思う。
たぶん緑間にも似たような感じで毎日尽くしてんだろうな。
くそ。緑間滅びろ。





「何だよ、傘さすの腕がダリーから嫌ってか?」

「いえ、それは全然へーキです!」

「……ッ」





へらっと気の抜けた笑顔を見せる高尾の頭をぐしゃぐしゃにしてやる。
無邪気に笑いやがって。
抗議の声を上げつつもしっかり傘を持ったままの高尾にもう一度「しんどくねーか?」と尋ねれば、すこしだけ俯いた。





「宮地サンがオレのチャリ押してくれてるから、平気です」





はにかんで告げることじゃねえだろ、こいつは、ほんと。





「宮地サン、ありがとう」







(少しだけ、伸ばして、あなたと並んで、)






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