朝からバレンタインの話で盛り上がってたわけですよ。
リアカー漕ぎ漕ぎ、真ちゃんきっと超貰うんだろーね大変だね!とか笑って。
オレも毎年自他共に認める義理チョコキラーなもんで、それなりに貰えると思うわ〜とか話してさ。
だからまぁ何て言うか自分には本命告白ドキドキイベントなんて他人事だと思ってたんだよ。





「思ってた、わけなんだけど、これは……」

「あああ!高尾!オマエそれ、その丁寧な個装!絶対本命チョコだろ!!!」

「ちょ、鈴本!声デカ!」





五限目の用意をしようと机に手を入れたらこつんと手に当たった何か。
基本手渡し義理しか貰わないオレには縁のなかった感触に呆然とその箱を手に取って見ていたら、隣席のクラスメイトに大声で突っ込まれてしまった。





「高尾が本命を貰う日がくるとはな!しかも手渡しじゃなくそっと机に忍ばせる控え目な子からとか!」

「あーはいはい。大変嬉しく思いますよ」





でも、誰からだろ。

漠然とそんな疑問が湧く。
そして無意識のうちに、向かう、視線の先。





「……何か用か、高尾」

「あ、いや、別に」





ああ。相棒が本命貰ってても興味一切ナシですかそうですか。
わかっていたとはいえ、こっちに顔すら向けない緑間に何となく苛立つ。
いやいや。苛立つ必要とか無いだろ。
オレだって別にこいつが誰から本命貰ってようと告白されてようと興味ねーし。





「しかし、誰からだろ……」





意識をチョコへ戻す。
さっき言われてた通り、丁寧に包装されたそれは市販だろうが何となく高級感を醸し出している。
うん。ぶっちゃけ高そう。
行儀良く机に鎮座する存在感もヤバい。





「真ちゃんが貰いそうな高級チョコだよね〜これ」

「……」

「え?無視とかひどくね??……ってか真ちゃんさっきオレが教室出た時席にいたよな。誰が入れてたとか見てない?」

「…………」





無言のまま机に向かってるエース様はよっぽど興味ないのか。
さっきからガン無視されてんだけど。
いつもは気にもならないはずのそのすげない態度に何故か今日はムカついて、予習をしているらしいその腕を掴んだ。
驚いて見開かれた緑の瞳がやっと此方を向く。





「ね、真ちゃ……………、んんん?」





名前を呼ぼうとして。違和感に気づく。




「………え、なん、顔、真っ赤なんだけど、真ちゃん……どしたの……?」

「……ッ」





がっ、と。

掴んでいた手を、掴み返された。





そのままの勢いで引っぱられて、耳元に唇が掠める。








「自分で気づけ、馬鹿め」

「……え、はっ?」

「少し考えれば…分かることなのだよ」

「……っ、」





いつものように鼻で笑った緑間の頬はやっぱり仄かに赤くて、つられるようにオレまで恥ずかしくなってしまう。

もう一度、机の上の小さな贈り物を見て、息をついた。





「……ずりーわぁ……しんちゃーん」

「……何がだ」

「こんなんされたら、」





気づいてしまったじゃないか。



さっきまでの苛立ちや、ムカついた理由に。





気づかされてしまったじゃないか。
至極単純な、この胸に燻る感情と、その名前に。





存在感を放つオレンジ色の小箱をちょこんと手のひらに乗っけて、こっちをチラ見しているその目をまっすぐに見つめ返した。





「真ちゃん」





この気持ち。整理して、ちゃんと言葉にするから。








(ホワイトデーに楽しみにしといてよ!)






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