(※帝光高尾くん)
「ムリ!やっぱムリっス!!」
「大丈夫ですよ黄瀬クン。愛と勇気だけで乗り切ってください」
「ちょ、なんスかそれ!アン○ンマンみたいに言うのヤメテ!」
無表情のままにチョコマシュマロをはぐはぐしている黒子っちに恨みがましい視線を送るけど既にこっち見てすらなかった。ヒドイ。
ため息をつきながらベンチに腰かける。今日は朝から女子たちに追い回されて正直疲労困憊なんスよ。高尾っちにも一回も会えてないし。
もう一度ため息をついたところで部室に青峰っちと紫原っちが入ってくる。
紫原っちの両腕には抱えきれない程の紙袋。恐らく女子からの供物に違いない。
「オイオイ、大丈夫かよ黄瀬。オマエ玉砕する前からもう玉砕後の顔してっけど」
「縁起でもないこと言わないでほしいっス……てか何で玉砕前提?!」
「せっかくボクたち全員で協力することになったんです、失敗なんて」
「あり得ないだろう、涼太」
「ひぃぃっ、い、いつから居たんスか赤司っち?!」
後ろからポンと肩を叩かれ思わず悲鳴を上げれば「黄瀬ちん女子みたーい」と紫原っちから冷たいお言葉をもらった。この人たち、ほんとに協力してくれるんだろうか。
不安が拭えないでいたけれど、時間も高尾っちも待ってはくれなかった。
「お疲れさまー!」と明るい声が部室に響いて、高尾っちが緑間っちと並んで入って来る。
あったかいその笑顔に。疲れていた心が自然と緩むのを感じた。
「高尾君。ハッピーバレンタイン、です」
「え?」
ええええウソもう始まったの?!!!と驚愕するオレを尻目に、黒子っちが少し微笑みながら可愛いラッピングの袋を高尾っちに差し出す。
一瞬キョトンとしたあと、高尾っちは驚いたように黒子っちを見つめ返した。
「えっ?これ、オレがもらっていいの?」
「はい。高尾君にいつも元気をもらっているお礼に友チョコです」
「わぁ、ありがと、黒子!」
「オラ、高尾。こっちはオレから義理チョコ」
「ええっ?青峰まで?!」
「一年分の義理詰まってっからこれから一年よろしくな」
爽やかに笑って小さなラッピング袋を放る青峰っち。くそ、ナチュラルに男前とか。
「えっ、ほんと、青峰も、ありがと……」
「高ちん、これあげるー」
「えええ紫原も?!」
「まいう棒バレンタイン限定ビックサイズチョコ味だよ〜。高ちんのためにいっぱい買ってきたし」
「え、や、マジでありがとう……ってか、え、なに皆、」
「これは僕からだよ、和成」
「赤司……っ?」
紫原っちから渡されたまいう棒詰め合わせを抱える高尾っちにそっと差し出されたのは、見たことのある、確かに、どこかで見たことのある英字の書かれた上品な袋で。
それは、まさか。かの某有名チョコブランドの……。
部室内に一瞬静寂が降りた。
「ちなみにホワイトデーのお返しは和成の手作りの品を期待しているよ」
青峰っちとは異色の爽やかを放つ赤司っち。いやあれもう爽やかとかいう次元じゃない気がする。
無言のまま首を縦に振りまくる高尾っちに、ここに来て初めて隣にいた緑間っちが声を掛けた。
「……まぁ、オマエが日頃から周りに気を配っているのは知っている……これはその配慮への褒美なのだよ。受け取れ」
「え。うそ真ちゃんまで……ちょっと何このサプライズ……っガチで、泣きそうなんだけど……」
うっすらとその鷹の目に浮かぶ雫に見入っていたら、思いきり背後からド突かれる。慌てて振り向いたらすごい悪人面の黒子っちと青峰っちがいた。あ。そうだ。オレまだ何もしてなかったっス。
「あ、ああああの!!」
「……黄瀬クン?」
皆に見守られながら……いや何か完全に睨んでる人いるけどそこはスルーで!……高尾っちの方へと一歩近づく。
見上げられて自然と上目遣いになって、高尾っち可愛すぎる、やばい顔が熱い。
「あ、その、これっ……オレからっス!」
「え、黄瀬クンまで、用意してくれてたの?!」
「……っ」
眩しいくらいの笑顔に失神しそうになるけど気を失ってるヒマなんてない。まだ。言わないといけないことが、あるから。
まっすぐに、見つめたら。
まっすぐに、返ってくる視線。
オレは半分、無意識の内に動いていた。
高尾っちの頬を優しく包むように両手を添えて、唇を耳元へと寄せる。
何か周りが少しざわついたけど、オレのぜんぶは、高尾っちに向かってて、気にならなかった。
「……それ義理じゃないよ。本命っスから、ね?」
沿わせた唇の先の肌が、真っ赤に染まって。
我に還ったオレが一緒になって真っ赤になるのは。
すぐあとの話。
(今から、はじまる、)