(※帝光高尾くん)
(※※帝光寮設定)
「高尾ォ。24日ヒマ?」
「え?ああ、ヒジョーに残念なことにヒマですけれども」
部活終わりにオレ呼んだのは青峰だった。普段はだいたいお互い別のヤツとつるんでるから、ほんと珍しい。
「じゃ遊ばね?」
「えっ?青峰と??」
「いやオレが誘ってんのに他にダレと遊ぶわけ」
そう言ってからりと笑う。
いつかクラスの女子が「青峰君って黙ってたら爽やかでカッコイイのにねー」とか言ってたのを思い出した。
確かに男のオレから見ても青峰は飾ってないというか、自然なかっこよさがあると思う。今ある幼さが抜けきった頃にはもっとカッコよくなるんじゃないだろうか。
「他のヤツにも声掛けたんだけどよ、テツは「クリスマスは実家に戻って家族と過ごします」とか言うし黄瀬は「女のコたちとクリパなんスよ」とか言うしとりあえず黄瀬殴っていい?」
「ぶは!」
「そんときのドヤ顔あまりにもムカついたから写メったんだけど。ホラこれ」
「ちょ、やめっ、ブフォ!しかもなんでっ連、写、モード……っ」
爆笑してたら青峰共々、真ちゃんに部室から追い出されてしまった。ああ、鍵当番だったのねごめん真ちゃん……。
そのまま何となく一緒に帰る流れになって、こうして並んで帰路に着くのも珍しいよなぁと隣を歩くチームメイトに意識を向けた。
深い海色の眼が夜空にぽっかり浮かぶ月の光を吸い込んだかのように鮮やかに煌めいてみえる。普段は見ること無い落ち着いた横顔。
「……っ」
何か変に心臓が騒いで慌てて視線を反らす。入れ替わるように此方を向いた青峰が、呟き程の声量でオレを呼んだ。
「なぁ、高尾ォ……」
「な、なに」
「……あー……いや、やっぱいい。24日に言う」
「は?」
悪戯っ子みたいに笑う青峰に、また心臓が微かに騒ぐのを感じた。
さて。
クリスマスイヴである。
とか改まって言ってはみたけど今日の予定は青峰と遊ぶくらいで特別イベント的なことは何もない。
でも折角誘ってくれたワケだし、ってサプライズプレゼントとか用意しちゃってるオレどうなの。別れ際に「ハッピークリスマ〜ス♪」とか言いながら渡してさっさと去ったらいいや。特別感だしたら何か恥ずかしいからあくまで自然に。
と脳内で計画していたオレのシミュレーションは現在、青峰の寮室にいる時点で色々トチ狂っていた。
しかも、覆い被さるように此方を見下ろしてくる青の瞳に言葉が巧く出てこない。なんだよ。今日は、屋内だってのに、なんでそんな、きらきら眼ぇ輝いてんだよオマエ。眩しいって。
「高尾……」
「……っ、ちょっと、待っ……おかしい、おかしいって!こ、こういうのは、恋人たちが楽しむイベントシチュエーションでしょ!」
「別にいいだろ、クリスマスだし」
「なにイベントに乗っかろうとしてんの!」
笑い混じりに冗談で流そうとするけど、見下ろしてくる視線の強さは変わらなくて。胸が苦しくなる。
いや、胸苦しくなってる場合じゃねーよ。こんな、一夜のイベントテンションに身を任せていい結果が生まれる訳がない。後々やっちまった感に苛まれて気まずくなるのは目に見えている。
「青峰、ほら、すっ好きな子とかいないの?!こういうのは、そういう子とすべきであって……っ好きな子いないの?!!」
いやどんだけ青峰の好きな子気になってんだよ。二回聞いちゃったよ。
「……、いるけど」
「だよね!いるに決まって……ってえええいるの?!いいの?!好きな子いるのに絶賛こんなことになってるけどいいのそれ……っ」
「オレはいいんだよ。オマエこそどうなんだよ」
「へっ?」
「好きなやついるから、そんな必死になってんじゃねえの?」
真剣な青色に、言葉を失う。
オレは。そんなんじゃなくて。
こんな一日限りで、青峰とそんなことしたくないって。
それは、つまり。
「……っ、」
「……はっ?え、ちょ、なっ、泣いてんのかオマエ!?ええっ?わ、悪いそんなイヤだとは思わなくて……っいやつうかフツーにそこまでイヤとかオレが泣きそう、」
「ちっ、げえよ、アホ峰っ」
「ああ?!」
近くに置いたままだったバッグから綺麗にラッピングされたプレゼントを手繰り寄せ、勢いよく前方に投げつける。顔面にぶつかれと思ったけどさすがエース。軽く往なすようにそれをキャッチしてみせた。
「?なんだこれ」
「流れで察してくんない?もうまじで青峰ってバスケ以外ほんとダメだよね」
「おま、泣いたと思ったら悪口とか……」
「それクリスマスプレゼントだから」
きりがないと思ってぶっきらぼうに告げたら、何か思い出したように青峰が目を見開いた気がした。
つうか泣いてないから!泣きそうにはなったけど泣いてねーからな!!
心の中だけで叫んでからゆっくり体を起こしかけたら、青峰はあっさりオレの上から退く。
「そういやオマエに」
「?」
「これ」
「……んん?」
ことりと手の平に乗せられたのは、小さな箱。不思議に思って見上げたら僅かに頬を赤く染めた青峰が小さく呟いた。
「高尾、好きだ」
「……へ?」
「それ、クリスマスプレゼント」
「……」
「……?オイ、」
「…………」
「高尾?」
「いま、なんて?」
ふたりで向き合って。おおよそクリスマスに相応しくないしかめっ面。
「いやだから、クリスマスプレゼント」
「その前まで遡って頂いても?」
「は?……、好きだ?」
「……っ誰が、誰を?!」
「いやだから、オレが!高尾を!つうかこの状況でそれ以外ないだろ!」
そうしていつものように笑ってみせる青峰に心臓が騒ぐのを、もう誤魔化せそうもない。
ほら、見上げた先で、柔らかく微笑まれたらあっという間に陥落だ。
「最初から今日、いうつもりだった」
いつから、とか聴く間もなく。
唇を塞がれる。
ちょうど、部屋の時計が0時を指したとき。
「……オレも、」
「……、ん?」
「……っだからオレも……!」
オレたちはどうやら。
恋人同士になったらしい。
(オレも、好きだっつったの!)