聖なる夜である。
もっかい言おう。
聖なる、夜。
つまりクリスマスだよ。
何でクリスマスに独り公園にいるかとか聞く?聞いちゃう?
征ちゃんと喧嘩して家出なう。
いや、なうじゃねーよ。
一緒に暮らし始めてはじめてのクリスマス、ちょう楽しみにしてたのに。
早々と夕飯とか張り切って準備してたのに。
夕方、家で待ってたオレに掛かってきたのは征ちゃんからの着信で。
『実家の用事で帰るのが遅くなりそうだから、先に休んでおいて構わないよ』
「は?……え、今日中に、帰って来れないの?」
『ああ、夜は適当に済ませるから、何なら和成も何か頼めば良い』
「……っ征ちゃん、今日、何の日か、知らねーの?」
『?クリスマスのことか?あまり、興味がないな』
とか言われたオレの気持ち。
行き場の無いこの気持ち。
思わず受話器越しに「征ちゃんまじないわ高尾くん幻滅だわ」と呟いて家を飛び出したわけだけど。
寒い。
征ちゃんにフラれんぼして心も体も凍えそうだよ真ちゃん。
あ、そうだ真ちゃん家に行こうかな。
そんで一緒にクリスマスケーキ食べよう確か真ちゃんクリスマスぼっちって言ってたはず。
そうと決まれば、とブランコから降りたオレの肩に、ふわりと分厚めのコートが掛けられた。
慌てて振り返れば、待ちわびていた赤い瞳。
幻滅発言から、まだ三十分も経ってないのに。なんで。
「征ちゃん……」
「心配した。家にいないから」
真剣な眼差しに咄嗟に目を反らす。
別に悪いことした訳じゃないのに。
こういうときの征ちゃんの目は、苦手だ。
オレのことを疑わない、まっすぐな視線が、苦手。
「和成。お前が望むなら、幾らでも時間を作ったのに」
「……っ」
「イベント等には興味はないが、お前との時間は、僕にとって何にも変えがたい大切なものだ。だから」
そっと微笑んだ征ちゃんの髪に、音もなく真っ白な雪が舞い降りた。
「帰ろう」
「……うん」
寒空の下、手を繋いで。
並んで帰路に着いた。
家に帰りついたあと、保温のままにしていたせいで少し焦げちゃったシチューを、征ちゃんは美味しいと食べてくれて。
ばつの悪さをキスで誤魔化したら征ちゃんがまた嬉しそうに笑ったから、たぶんこの先一生この人には敵わない気がする。
(大切なのは、君と過ごすということ。)