「「絶景!」」
二人で思いっきりハモって、顔を見合わせる。黄色のきらきらした目とぶつかって、思わず噴き出した。
「思いきって来てよかったねー!」
「ほんとに!空気がおいしいっス!」
黄瀬くんとオレは今、大学の春休みを利用して旅行へ来ている。
目の前に広がる山麓の景色に心癒されつつ、自然と重なった手に顔が綻んだ。
「ここなら心置き無く高尾っちにくっつけるし、こんな幸せないっスよ」
さすがモデル。笑顔が眩しい。
「と、とりあえず荷物置きに行こっか!」
無意識に熱くなる頬を誤魔化すように、オレは繋がった手のひらを軽く引いて旅館へと歩き出した。
「………………黄瀬くん?」
「や、ちょっ、あの、違ッ!知らないっスオレも、ききき聞いてないっスよこんなの!!ただ予約の時に『二人です、あ、お忍びなんでよろしくお願いします』とは言ったけど!!」
「……。いや、別にいーんだけどね」
「高尾っち好き!!!」
後ろから抱き締めてくるわんこ全開な黄瀬くんの頭をよしよしと撫でつつオレの意識は、明らかに「新婚さん用です」とばかりに室内に鎮座する……ベッドでいうところのキングサイズなお布団一式。
そりゃオレらもそれなりのお付き合いはさせてもらってる訳だし。
いやほんと全然いいんだけど。
「なんだろーね。二人で寝るのに布団が最初からひとつしかないって、なんかすごい……」
「……え、す、すごい、なん、スか……?」
振り向いた先の黄瀬くんにニッコリ笑いかけて。
「イロイロ妄想しちゃう」
「……ッ」
イロイロ、ね。
わざと意味深に言えば真っ赤になる黄瀬くん。
普段はすげえリードしてくれるしスマートなんだけど、こういうこと言うとすぐ赤くなるからやめらんないんだよな。
少しの優越に浸っていたら、急な浮遊感に襲われる。
「ちょ、黄瀬くん……っ?」
「第一ラウンドはそこの露天風呂っスね」
「まだ真っ昼間だけど!?」
軽々と横抱きにされたことにもびっくりだけどね!
そういう意味も込めて視線を送れば、艶かしい笑顔が返ってきた。
あ。これスイッチ入ってるわ。
瞬時に悟ったオレに追い討ちを掛けるように、黄瀬くんはそっと唇を重ねてくる。
身動き取れずに固まってたら、吐息混じりの甘い声がおちてきた。
「……煽ったのは、高尾っちっスからね?」
(ふたりの時間は、はじまったばかり)
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