「お、おかえりなさい」
「……、おう、ただいま」
うぉぉぉぉなんだこの空気やっべえ超ハズい!何かよくわかんねーけど超ハズいわこれ!!!
玄関先で赤面し合うとかなにやってんだバカかむしろバカップルか。
とは思うけど、高尾の「おかえり」にすごい喜びとか感じてしまってる自分いっかい落ち着け。
脳内で葛藤を繰り広げていたら、俯いてた高尾が顔を上げて笑った。
「改めてこう、宮地サンを出迎えると……一緒に暮らしだしたんだなぁって思って……照れるけど嬉しいもんですね!」
破壊的なその可愛さに玄関の壁に頭を打ち付けたい衝動に駆られる。
それと同時に、先日二人でざっくりと決めた同棲におけるルールのひとつ『嫌なこと、嬉しいと思った事を相手に伝える』というのが頭を過った。
今、後者においてオレの精神力が試されている。
たぶん、今オレが思ってることを口に出して伝えたら高尾は喜ぶだろう。が、果てしなく恥ずかしい。が、高尾は口にしてくれた。が、やっぱ恥ずかしいエンドレス。
いまオレのことヘタレだと思ったやつ全員轢く。
「宮地サン?」
「……っ」
「あの、……」
高尾の瞳が不安そうな色に変わる。
オレが何も言わないから。
理由はわかってんのに、この歳になるまでに構築されてきた性格故思うように口が開かない。
「……っ!ちょっと待て、ちゃんと言うから、待て」
「は、はい」
待たせたまま、沈黙が続く。
つうか玄関先で無言で向き合うとかほんとなにやってんだ。
「……」
「…………」
「…………あ、あの、もしかして、出迎えとかイヤ、でした?」
「は?」
ぽつりと、いつの間にか俯いていた高尾の口から、言葉が零れ落ちる。
「付き合うのと一緒に住むのって、やっぱ違うし……オレ、宮地サンの気に障ること、しちゃったのかなぁ、って」
「……っ!」
その一言に、理性のスイッチが一瞬でオフになった。
がしりと高尾の両頬を掴んで上を向かせれば、橙色の瞳にうっすら涙が浮かんでいて。
普段はへらへらしてるくせに、なんでこういうことには繊細なんだよ可愛いなクソとその体を思いきり抱き締めた。
「み、宮地サン……っ?」
「逆だ、バカ」
「へ?」
心地好いその体温に身を寄せながら。そっと告げる。
「オマエの……『おかえり』が、ビックリするくらい、嬉しくて固まってたんだよ……っ!」
「!!」
「もう、ほんと好きだわ」
「なにそれ宮地サンずるい……」
「オマエも大概だぞ」
玄関先で抱き締め合ったまま。
二人して笑う。
ああそうか。
バカみたいに穏やかな気持ちで、オレは高尾の髪にキスをおとした。
(これが、幸せということ)
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