オレの好きな人。
かっこいいくせ意外と不器用で。
モテるのに嫉妬深いとこあって。
すげえ自分に厳しくて。
他人にも厳しいようでいて誰よりも優しい人。
いつまでも傍にいたい、大好きな人。
清志サンとは学生時代からを含めたらもう15年目のお付き合い。
一緒に暮らし始めたのがオレが大学3年に上がる年の春だったから、同棲ももう10年目なのか。
家族といい勝負になるくらいには過ごしてきた。
よっぽどの事がなければ食事は二人で食う。
プライベートの時間は大事にする。二人の時間はもっと大事にする(時間とは長さではなく密度を重要視していく)。
嫌なこと、嬉しかったことはできるだけ口に出して相手に伝える。
最初に二人で決めたそういった漠然としたルール。それを二人とも何となくずっと守り続けていて。
こじんまりしたケンカは何度かあったけど、じゃあ別れようとかもう出ていくわとか言うおっきな諍いは10年で一度もなかった。
つまりそれなりに順風満帆な恋人生活を送っていたと思うわけよ。オレ的には。
だから今、テーブルを挟んで向こう側。清志サンが未だ嘗て見たことないくらいの真顔でオレを見据えている理由がぶっちゃけ分からない。
「あの……清志サン?」
「……っ!ちょっと待て、ちゃんと言うから、待て」
あ。真顔崩れた。
顔を隠すように手で覆ってしまった清志サンに首を傾げる。
そういえば同棲始めた頃『嬉しいと思った事を相手に伝える』っていうのを必死で実行しようとしてくれてたときもこんな感じだったなぁとぼんやり思った。
あの時は清志サンがあまりに言い澱むから別れ話でもされるんじゃねーのと勝手に勘違いして泣きそうになったんだよな。
結局。オレの「おかえり」の一言がすごく嬉しかったのだと赤面しながら告げてくれてその事がオレ自身すっげえ嬉しかったのは今でも覚えている。
「大丈夫、清志サン。今ならオレ、ちゃんと待てるよ」
「……っ」
「どんな言葉でも、貴方がくれるならオレはちゃんと受けとるから」
泣いたりしねーし心配しないで?なーんて冗談めかして言えば、ほんの少し驚いたように目を見開いたあと。
清志サンはオレの好きな笑顔を浮かべた。
ちょっとだけ困ったような、照れ臭そうな、あったかい笑顔。
「……和成、オマエほんと大人の余裕みたいなの出てきたよな」
「そりゃもうイイ大人だもん」
「イイ大人はだもんとか言わねーよ」
「ぶは!可愛いからいいで……、……?」
くしゃりと頭を撫でられたその手で急に左手を取られて。目の高さまで持ち上げられたかと思えば唐突に、その薬指にシンプルなシルバーのリングをはめられた。
ただただ呆然。
「和成」
名前を呼ばれ、視線がぶつかる。
そんな清志サンの左手の同じ位置にも全く同じものが収まっていて。訳が分からず見つめれば、明るい色の瞳が甘く揺れた。
「オレらは結婚こそできねーけど……これから先も……オマエの傍に居たいと思ってる」
「……っ」
「いつもはあんま口に出して言えねけど、」
オレの手は、清志サンの掌に包み込まれて。
ふたつのリングがカチリと小さく音を立てた。
オデコに優しくキスをされる。
「ずっと、一緒にいような」
宮地清志サンっていう人に出会って、好きになって、好きになってもらって、付き合って、嫉妬し合ったりもして、愛し合って、たくさんたくさん時間を共有し合ってきた。
永遠の愛なんて、とか思ってたオレが。これほどまでに一人の人を愛し続けることができると教えてくれた人。
大切な、たいせつな、人。
いつまでも、と望んでいたのは、自分だけじゃなかった。
だからオレは、迷うことなく笑顔で頷くんだ。
(ずっと、いつまでも、一緒に)
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