(※帝光高尾くん)
愛される理由にしたくない。
愛する障害にしたくない。
でもみんなは優しくて、オレはついその優しさに甘えてしまう。
なにも返せなくてごめんね。
そう言葉にすれば、困らせるのは分かってるから。
だから、せめて、いつも笑っていよう。
「……、」
ぱちり。視界の端で光が弾けて。
ああ、もう来たのかと。
うんざりする。
「高尾?」
「…くぁ、……ん、ごめん、なに?真ちゃん」
「寝不足、ではないな」
噛み殺した欠伸に真ちゃんは顔をしかめるとオレのこめかみを優しく撫でてくれた。
心配性だなぁなんて思いながら「いつものだよ」と笑う。
「えっ、もう来たんスか?!高尾っち大丈夫?ツラくない?」
「黄瀬君、毎回のことながら騒ぎすぎです」
「だって心配なんスよぉ……」
練習着に着替えていた黄瀬くんが綺麗な眉をしょんぼりと下げて覗き込んでくる。
大丈夫だと伝えるけど悲しそうな表情のままで。
「高尾君、あまり言うと逆に気をつかわせてしまうのは分かっているんですが……ツラいときはムリせず言葉にしてくださいね」
「黒子の言う通りなのだよ、高尾」
言わなければなおのこと心配する。と二人の目が告げていた。
応えるように小さく頷いたとき、ちょうど部室の扉が開く。青峰と紫原が不思議そうな顔で入ってくるのが真ちゃんと黒子越しに視えた。
「オマエらなに高尾囲んでんだよ」
「……、高ちんもしかして頭痛きたの?」
お菓子の袋片手にゆるゆると近づいてきた紫原を見上げる。青峰もすぐに察したらしい。黒子の隣に立ってこっちを見下ろす表情は少しだけ険しくて。
「や、まだだけど、前兆きたから……もうすぐだと思う」
「しんどかったらすぐ言えよ?」
「ん、ありがと」
何だかんだ心配してくれる青峰にも笑いかければ頭をくしゃりと撫でられた。
「前は峰ちんがしてたし、今度はオレが抱っこしたげるねー」
「は?!聴いてないぞ青峰!貴様どういうことなのだよ?!!」
「一々るせーな緑間ァ、てめーは高尾の母親か」
あ。そういえばこないだ保健室でちょっと吐き気ヤバかったときに偶々会ったんだよな。それで青峰が抱えて背中擦ってくれて。
あのときは余裕なくて気づかなかったけど、紫原に見られてたのか。
よくわからないけど何かわいわいしてる青峰と真ちゃんに苦笑してたら、なぜか意気込んだ様子の黄瀬くんがオレの肩を掴んだ。
ちゃんと力加減はしてくれてるみたいで痛くはないんだけど、どうしたんだろ。
「黄瀬くん?」
「高尾っち……っ!しんどかったらいつでもオレの胸貸すからね!!」
「え?あ、うんありがとう」
「ボクもいつでも呼んでください、高尾君」
「黒子も、ありがとうな」
最初こそ戸惑っていたけれど、今はだいぶ素直にみんなの優しさを受け取れるようになったと思う。
『和成が僕たちを大事に思って心配を掛けまいとする以上に、僕たちが和成を大事に思って甘やかしたいんだよ』
『だから、言葉にしないことでムダな心配を掛けるより存分に甘えてくれた方が、皆きっと喜ぶ』
赤司から言われた言葉が頭をよぎって、無意識に笑みが浮かんだ。
オレは、ほんとに幸せ者だ。
「皆、そろそろ部活開始の時間だぞ」
思い出していた当の本人が部室に姿を現し、皆一斉にそちらを向く。
その視線を気にした様子もなく赤司は穏やかに笑った。
「さぁ、皆ボーッとしてないで体育館に向かうんだ」
まさに鶴の一声。
オレを含めてみんな動き出す。
すれ違い様、聞こえた赤司の言葉に。
また笑みが零れた。
(和成になら、僕の胸もいつでも貸そう)