「じゃーん!ほらこれ、可愛くないっすか?」
「ぶっ!」
「わ、きたなっ!ちょっと宮地サン、これクラスの女子ら作の一点モンなんですから!」
汚さないでくださいよーっ、と騒ぐ高尾の膝上20センチでフリルがひらりとゆれた。
…………いやゆれた、じゃねえよおかしいだろ。
何でヤローの膝上20センチで愛らしいフリルが揺れるんだよ。
つか何でメイド?
しかもゆるふわウェーブのヴィッグとかどんだけ本気の女装だよ。
ただでさえ可愛いのが更に可愛い所謂男の娘になってんじゃねえか。
「……ッ高尾、オマエ…!まさかそういう仕事始め……」
「てないですから。もー宮地サン、今週末に何があるか忘れたんですか?」
「今週末っつったら文化祭だろ?」
「そう!オレらのクラス、メイド&執事カフェなんですけど」
高尾はスカートの裾を軽く摘まんで笑う。
「女子の希望で、男子だけで給仕にやることになっちゃって」
「……は?」
「だから、くじ引きでハズレ引いたやつ全員メイドなんですよ!」
いやー、ないですよねー。とか爆笑してるけどなオマエ。
無くはない。
決して口にはしないが無くはないぞそのメイドコスとか思ってしまっちゃってるオレを誰が殴ってくれ。いや殴られたらムカつくからやっぱ軽く頬つねるくらいにしといて。
「……てか宮地サン、さっきから微妙に口数少ないですけど、あれ、でした?あー……やっぱヤローのメイドさんとかないですよね……」
「高尾」
「はい?」
「とりあえず座れ」
オレの様子がいつもと違うことに気づいたのか、高尾は大人しく腰を下ろす。
「オマエ、そのカッコで給仕するとか本気か?」
「はぁ……まぁ決まったことですし、」
「……、よし分かったじゃあルールを設ける」
「はぁ?」
アホみたいな顔でこっちを見てもメイドのカッコしてるというだけで何かプラマイゼロになってるという謎の特殊効果。
メイド服すげーな。いや着こなしてるコイツがやべえのか。
「とりあえず笑顔禁止な」
「ブフォ!ちょっ、それ接客の全否定じゃないですか!!」
いつものように爆笑する高尾を軽く睨むが特に気にしたようすもなく。
ほんとに分かってない。
後頭部に手を添えて強めに引き寄せたら、一瞬で息がかかる距離まで近づく。
高尾が、息を飲んだのが分かった。
「自分がかわいーってのをいい加減自覚しろ、このバカ」
(オマエはオレにだけ奉仕してりゃいいんだよ)
顔を真っ赤にさせた高尾から、「宮地サン……まるで少女漫画のヒーローみたい」とつっこまれるのは、すぐあとの話。
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