乙、彼、夏。
(※帝光高尾くん)








夏が終われば秋がきて、冬になる。



そして桜が咲く頃。
ボクらは。










「暑い」

「えっ?こんな寒いのになに言ってんスか青峰っち……」

「いや寒ィのは気持ちの問題かと思って暑いって言ってたら暑くなるかと思ってよ」

「……。高尾っちどうしよう青峰っちの頭が寒さでおかしくなっちゃったっス!」

「黄瀬ェ……」





そんなやり取りをしてる二人を見て高尾君は制服の袖に手を通しながら笑う。
それだけで部室の空気がほっこり暖まった気がしたのはたぶん気のせいじゃない。

というか青峰君も黄瀬君も寒いならさっさと着替えればいいものを、未だに練習着のままじゃれている。





「もう冬も本番だもんなー、もうすぐ雪降るんじゃない?」

「げっ、マジかよ……」

「冬なんていいことないし無くなったらいいんス」





「涼太、その考えは浅はかだ」






二人に答えるように笑顔を向けていた高尾君の隣にさりげなく立って(いやボクが気づいてる時点で全然さりげなくはないんですが)赤司君がいきなりそう宣まった。

そして彼はいつも通り尊大な態度でさりげなく(いやだからボクが気づいてる時点で以下略)高尾君の肩に手を置い……たんですけど、それ必要な動作ですか?
言葉を発するのに一々高尾君に触れる必要性はあるんだろうか。とは思ったけど、とりあえず今は話が進まなくなりそうなので黙っておく。





「……フッ、フフフ」

「え、ちょ、なんで赤司笑ってんのやべーよこええよ」





隣に移動してきた青峰君が耳打ちをしてくる。しかし赤司君の笑いのポイントなんてボクに分かるわけない。
不気味に笑う赤司君が次に顔を上げたとき、彼の満面は喜色に染まっていた。





「冬、それはボクらに人肌と人肌の距離を縮めるチャンスをくれる季節だ!」

「赤司……意味が分からないのだよ……」





今まで他人事のように帰宅準備に徹していた緑間君が冷静なコメントを溢す。
それを華麗にスルーした(大変遺憾ながら)我らがキセキのキャプテンは笑顔のまま高尾君の手をとっ……たんですがだからそれ必要な動作ですか?
ちょっといくら赤司君でもあまりあれだと顔面イグナイトをせざるを得ないんですが。





「そして和成の萌え袖が見放題なのも冬だけだ!!!」

「ブフォ!!」





捧げられた高尾君のカーディガン袖は確かに心踊る見事な萌え袖だった。
眩しげに目を細めるキセキを他所に、高尾君本人は爆笑している。





「夏の露出も悪くないがこうして儚さを演出されることにより普段の明るく無邪気な様相とのギャップが生まれ守ってあげたいという保護欲を生み出す魅惑の萌え袖(※ただし和成に限る)を僕は全力で推していきたいと思うそう敢えて言おう初めから露出されたものよりも隠されているものを見つけ出す冒険者でいたいと」

「高ちーん、冬季限定のチョコ食べるー?」





紫原君。赤司君の発言をなかった事にするのはやめてあげてください。
ノンブレスはさすがにボクも気持ち悪いので一瞬スルーしようか迷いましたが、せめて青峰君黄瀬君緑間君みたいなドン引き顔くらいはしてあげましょう。今後の赤司君のために。





「敦……オマエには冬季限定和成の良さを一から説明する必要があるみたいだな」

「え、高ちんも冬季限定なの?」





赤司君の赤司君による赤司君のための冬季限定高尾君の良さを説明する会が始まったところで、高尾君がボクの方に近寄って来てくれるのが見えて思わず表情筋が弛んだ。

彼は正直キセキの皆がドン引きする程度の主将からの気持ち悪い愛情にも戸惑うことなく、笑ってのける。
その心の広さというかおおらかさというか、そういう所が、皆を惹き付けてやまないんです。

勿論、ボクもそのひとり。








「なー黒子」

「何ですか高尾君」

「雪降ったら、一緒に雪だるまつくろーぜ!」

「いいですね」








その笑顔が、なにより大切で。
愛しい。








きっと、桜が咲く頃。








ボクらは。








(同じように桜の下で、笑っているのだろう)





prev next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -