愛情を一匙






ズダン!!

という明らかに料理に似つかわしくない恐ろしい音に慌てて後ろを振り向いた瞬間。

人参がごろりとシンクの方へ転がった。





「……」

「……あ、あはは……ずいぶん粋の良い人参だったみたいね〜」

「高尾……オマエまさか」

「……ごめん。今まで黙ってたけど実はオレ料理苦手なんだわ」





お手上げ、というように勢いよく両手を翳した高尾にとりあえず包丁を置くように指示を出す。
苦笑してそっと凶器はまな板へと戻された。



コイツは何でもそつなくこなすから料理もそうなんだと勝手に思っていたけどそうじゃなかったらしい。

少しだけ意外に思いながら、二人でキッチンに並ぶのも悪くねえななんて考えながら隣を見れば高尾がイカを見据えて固まっていた。





「え、これどうすんの?切るの?」

「とりあえず剥ぐ」

「剥ぐの?!!」





リアクションがいちいち面白い。
オレがイカの皮を剥いでんのを興味深そうに見つめてくるから、とりあえず怪我しないように注意して野菜の皮剥きの方を頼む。

神妙な顔で人参の皮を剥き始めた高尾に思わず笑みが溢れた。




「オマエにも、苦手なことあったんだな」

「んー、そりゃ人間だもの」

「ククッ」

「ちょっと笑わないで!地味に傷つく!」

「いや、いんじゃねえか?」





関係ないけど、きょとんとこっちを見上げてくるそのエプロン姿はなかなかそそるもんがある。





「オレがオマエに教えられることなんて、あんまねえし。何か新鮮でいい」

「そーか?」





勉強だって教わる側だし機械とか服のこととか、だいたいいつもオレが聞く側だ。
だから。





「たまにはオレが先生でも、悪くねえだろ?」





ニヤリと笑ってみせたら皮剥きの手を止めた高尾が、つられるように笑う。





「じゃあ……火神せんせー、今日はよろしくお願いします!なーんてな……ってか早ァッ!イカいつの間に解体されたのってかいつの間にその豚肉切った?!!!」

「あ、わり。ついいつもの癖で……」





喋りながら作業しちまった。








「もーっ、今日は火神先生なんだから勝手に作ったらダメだからな!オレに教えながらやるんだからな!」








そう言って人参の皮剥きを再開した高尾にまたひとつ、笑みが零れた。








(ってオイィィ待て高尾!!人参の皮そんな分厚くねーから!!!食べる部分剥きすぎだ!!)

(あ、ごめん)








(美味しい料理が出来上がるまで、今暫くお待ちください。)






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