朝から不調なのは何となく分かってた。
しかし全校朝礼の時間にここまで悪化するとか思わなかったわけで。
何があれって、あれだわ。
ただ立ってるのが、激しくしんどい。
というかオレよく立ってるよなエラくねえ誰かほめて。
とかいってる間に何か視界が白くなってきたしこれいよいよヤバイんじゃいやむしろマズイ足が地についてる気がしない。何かふわふわしてる。いや、ふわふわってなんだよ、夢心地かよ。
「……高尾?」
後ろから掛けられた声に振り返る事なくそちらを視る。
あれ?
真ちゃんの眼鏡、レンズが九つあんだけどなんのジョークなの。こんなフラッフラな相棒爆笑させにくるとか何殺す気なの。
ああ、ダメだ、笑う気力すらねえわ。
カクン、と。
全身から力が抜けて倒れると本能的に思ったけど、予期した衝撃は襲ってこなかった。
意識の途切れる寸前に視界を掠めたのは、
ゆらゆらと心地の良い一定のリズムに完全に落ちていた意識がゆっくりと浮上していく。
ぼんやり開いた視界は白でもふわふわでもなくハッキリしていて、少しの吐き気と頭痛を残した以外わりと大丈夫そうだ。
と、思った瞬間。
ありえないものが、視界に飛び込んできて。いや、人、が。
「みっ、……!?」
「あ?……あぁ、気がついたのかよ」
「な、なっんで!宮地サンが……えっ?何で、えええ?」
「うっせ、病人は大人しくしてろ」
いや、いや何で。
「いやいやいやいや何で宮地サンに、よっ、横抱きされてんですかオレっていうかこれいつからっ重くないんですか!」
「……てめえさっきの聞こえなかったのか?ああ?」
「き、聞こえてましたけど、もう大丈夫です歩きます!オレ自分で歩きますから……」
「高尾」
「……っ」
名前を呼ばれたかと思えば、ただでさえ近かった宮地サンとの距離が殆どゼロになって。思わず息を止めた。
それこそ吐息がかかるくらい近くて、体調悪いとか関係なく目眩がする。
「いいから。黙って運ばれてろ」
「……っ、…ありがとう、ございます……」
何で列めっちゃ離れてる三年の宮地サンがオレのとこまで来てくれたんですか、とか。
もしかして朝会ったときからオレが具合悪いの気づいてくれてたんですか、とか。
今ちょっと顔赤いのは、実は目立っちゃって恥ずかしかったからですか、とか。
聞きたいことはいっぱいあったけど。
オレもたぶん今顔真っ赤なんだろうなと思うと恥ずかしくて、黙って宮地サンの肩口に顔を埋めた。
(意識の落ちる寸前に視界に映ったのは、確かにオレの大好きな蜂蜜色だった)
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