以前、高尾君がキラキラと瞳を輝かせながらボクにぽつりと溢した事がある。
「征ちゃんとの初ちゅーはさー星空の下とかだといいなぁ……」
女子か。
とツッコミそうになったけどすぐに『ってオレ何言ってんだろちょうハズい忘れて!今の忘れて!』と真っ赤になった高尾君が可愛すぎたので、ボクは何も言わずにバニラシェイクを啜った。
それから数日後のマジバでたまたま火神君と出会して同席していたところに、ちょうど噂の二人がやって来たのはもう偶然というよりむしろ緑間君的に言えば運命だったのだよ。かもしれない。
「和成、ほんとにそれだけでいいのか?」
「うん。いま口のなかが甘いもの求めてるんだよね、だから大丈夫!」
高尾君の手元にはカップに入ったソフトクリーム。スプーンでちまちま食べる姿が愛らしい。と思ってたら目の前に座っていた火神君が唐突に口を開く。
「あの二人って……もしかして、あれか?」
「まぁ、あれですね」
「黒子、でも確かオマエ……」
「ボクは高尾君が幸せならそれで良いので」
「……」
遠目に「あ、征ちゃんも食べる?」と笑う高尾君の姿が見える。
幸せそうなその笑顔に、心がほっこりした。
と不意に、ガタリと音がして急に赤司君が腰を上げたかと思うと。二人の影が、重なって。
次の瞬間ボクの視界に映ったのは、ポカンと目を見開く高尾君の顔。
それはすぐに真っ赤に染まり、小さく「は……、っ?」と呟く声が聞こえた気がした。
「は?……いま、赤司、アイツ……高尾に、キス……ッ」
真っ赤になっているのは高尾君だけではなかったらしく。激しく吃る火神君に呆れた視線を向ける。
それもすぐに高尾君たちへと戻したけれど。
「な、……っんで、いまっ征ちゃ……!」
「ああ、和成があまりにも可愛くて、つい」
赤司君の表情はこちらからは見えなかったけれど、悲しそうに歪んだ高尾君の瞳は、ボクの瞼にしっかりと焼き付いた。
パァンッ
と乾いた破裂音と同時に高尾君は席を立ち、踵を返して出ていく。
「……まじかよ」
火神君がぽつりと呟いた。
追い掛けない赤司君。いやたぶん、追いかけられないのだろう。あまりの衝撃に。
彼はきっと誰かに頬を叩かれた事などないに違いない。況してや、自分の恋人に、なんて。
ボクはそっとため息をつく。
高尾君の背中をボクが追いかけるのは簡単だ。最悪そのまま無視してしまえば、彼から相談される可能性だってある。
それでも、ボクは静かに立ち上がって赤司君の方へと歩みを進めた。
「赤司君」
「……っテツヤ?……見て、いたのか」
「はい」
案の定呆然としていた赤司君を立ったまま見下ろすと、狼狽えるように彼は視線をさ迷わせる。
こんな彼を見られるなんて、貴重だ。
「さっさと追い掛けないと、他の人にさらわれてしまいますよ」
その言葉にハッとして立ち上がる赤司君の背中に、もう一言。
「高尾君が可愛すぎて思わずキスしたくなる気持ちは分からなくもないですが、彼、意外とロマンチストなんです」
驚いたように振り向いた赤司君ににっこり笑いかけてやったのは、少しの意地悪。
「ちゃんと、夢見せてあげてください」
(どうか、王子様と夢のようなキスを)
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