(※大学生)
「倦怠期って知ってます?」
「ああ?」
「倦怠、つまり飽きたり怠けたり、ってやつ」
テーブル挟んで向こう側で黙々と飯食ってた高尾が、突然そんなことを言い出したのは。
付き合いはじめて四年、世間的に言う同棲というやつを始めて一年が過ぎた頃だった。
「……言葉の意味は知ってる」
「ですよね。宮地サン頭イイし」
「で?何が言いたいんだよオマエは」
自然と声が低くなるのは仕方ない。
いきなり恋人が倦怠期の話とか始めて明るく喋れるやつがいるか?いねーだろ。……何か反語みたいになったけど。
食事の手を止めずジロリと視線を投げれば、話題のわりに至っていつも通りっつーかむしろ何か機嫌良さげな表情の高尾。
いやオマエどういうことだよ。
四年も付き合ってりゃ慣れたり飽きたりするのがまぁフツーなんだろうけど、コイツのこういういきなり訳わかんねーこと言い出したりするとこは未だに掴めない。
「こないだ同級生にたまたま会ったんすけど」
「……へぇ」
「高校三年のときのクラスメートで、そいつ、卒業式のあとにクラス委員の子に告白して付き合いだしたんですよね。で、すぐに同棲始めて」
「……それで?」
「今、倦怠期らしいです」
高校卒業と同時に同棲を始めたんだったら、ちょうどオレらとおんなじってことか。
ぼやっと聞いていたら、高尾は楽しそうに肩を揺らす。
「付き合いだして一年、同棲始めて一年。オレらは付き合いだして四年、同棲始めて一年」
静かに箸を置いてオレを見つめる。その瞳はいつも好奇心に満ちていて、見ていて、飽きることがない。
「オレ、ずっと、宮地サンのこと好きなんです」
「……はっ?」
目に気を取られてたら、いきなりとんでも発言を投げられ思いっきり変な声が出た。
いつもなら爆笑するとこなんだろうが、今日の高尾は、照れくさそうに笑うだけで。
「飽きるどころか、毎日毎日、宮地サンのこと好きになってくんですよ。すごくないですか?」
ぽとりと、手にしていた箸がテーブルに転がる。
「こうして向き合って飯食ってるだけでもすごい楽しいし幸せだし……でも、宮地サンはどうなのかなぁって、ちょっと思ったんですけどね」
オイ、勝手に疑うな。オレだって自分でも引くくらいずっと飽きてねーんだよ。むしろオレの方がずっと、オマエのこと。
そう、口を開く前に。
パッ、と。
あのいつもの笑顔で。高尾が言った。
「宮地サンはイヤなことはイヤってちゃんと言ってくれるから、大丈夫かなって!」
「……っ」
「オレが好きで、宮地サンが嫌じゃないなら……」
「……っバーカ」
「へっ?」
コイツは、ほんとに。
いつもより少し遠くに手を伸ばす。
そっと頭を撫でれば、驚いた表情。
「イヤどころか、オレだって毎日好きになって際限ねーから困ってんだよ!」
お互いに真っ赤になって、結局ご飯どころじゃなくなるわけだが。
たまにはこうして口にするのも悪くはねーな。とか、ガラにもなく思ったのは。
(コイツが幸せそうに笑ったから)