sweet home





「高尾、そんなところで寝たら風邪をひくのだよ」

「ん……あー……」

「聞いていないだろう……」





大学から帰ると、高尾がソファに埋もれるように眠っていた。
声を掛けても起きる様子がない。仕方なく体を軽く揺すれば、うっすら開かれた瞳が不機嫌に此方を見上げてくる。





「……やぁだ……」

「ヤダじゃない」

「……んー……」





決して広くはないソファの上で上手く寝返りをうつと、背もたれの方に顔を向けてしまう。此方側からは表情が見えなくなった。

いつだったか。誰かが「高尾は隙がない」と話していたことがあったな、と脈絡無く思い出す。
オレ自身こうして、一緒に暮らし始めて分かったことだが……高尾はパーソナルスペースではわりと隙だらけの男だ。それこそ、最初はこちらが戸惑うほどに。





「高尾……」

「……ン、っ」





そっと膝をついて、露出された耳元に唇を寄せる。そのまま形をなぞるように舌を這わせてやれば、ピクリと反応したあと、僅かに首を動かした高尾から恨みがましい視線を向けられた。





「……せっかく、きもちよく微睡んでたのに……」

「こんなところで寝たら、風邪をひく」

「真ちゃんママは心配性ですね〜」

「オマエの母親になった覚えはないのだよ」





ゆるゆると体を起こしたのを確認しオレも立ち上がれば、今度こそ寝室へ向かうのかと思っていた高尾はやはりソファに座ったまま動く気配がない。
余程眠いのか、体の軸が揺れている。

そっとため息をついてもう一度しゃがんで覗き込めば、今にも閉じてしまいそうな瞳が甘えるようにオレに絡んだ。





「……ん」





そっと伸ばされた両手を受け入れる。
揺れていた体をそのまま此方に預け、高尾はまた、小さく寝息をたて始める。





「……ほんとうに、」





無防備なヤツなのだよ。





溢した呟きは誰に拾われるわけでもなく、そっとリビングの空気に溶けていく。

眠ってしまった高尾を起こさないよう横抱きにすると、オレは静かに寝室へと足を向けた。








(甘えるきみに、甘い)






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