(七)
「……」
「……」
「………」
「…………っ」
え。なにこの気まずい空気。
え、緑間に帰れっつったのアナタなのに何でなにも喋んないんですか何なんですか。
宮地さん、というらしいこの人とオレは、恐らくさっきの緑間の話を総括して考えると部活の先輩後輩の関係で。
たぶん、卒業しているにも関わらずこうしてわざわざ面会に来てくださってるところをみると、わりと可愛がってもらってたんじゃないかと推測できる。
でも緑間が帰ってからぼんやりと窓の外なんか眺めちゃって、その横顔がムダに綺麗で思わず見惚れちゃったりして、カッコイイなぁとかいやいやいや何考えてんだオレ。
「……何か、ややこしいこと考えてんだろ、オマエ」
「へっ?」
思考を遮るように掛けられた声にさっきまでの威圧感は無く、静かな病室によく透った。
思ってたよりもずっと柔らかい声色に、自然と肩の力が抜けてく。
そのままそっと窺い見た宮地さん、の表情に素直に驚いて巧く言葉が出てこない。
なんで、そんな顔、してるんですか。
こっちまでとろとろに溶けてしまいそうになるくらい、優しい、顔。
「よかった。怪我、無くて」
「……っ、え?」
「記憶がないってのがどんなんかは想像もつかねーけどさ…体は無事なら、今からがあんだから」
「今、から……」
「ああ、オマエは幸い、やたら周りから好かれてるしよ。今から色んなことして新しい記憶、つくってったらいんじゃねえの?」
そうしてる内に、ひょっと前の記憶も戻ってくるだろ。
そう笑った宮地さんが、すごく寂しそうに見えて。
何故かオレが泣きそうになった。
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