(五)
「センパイ?」
「もう既に卒業されているがな」
目が覚めたその日から律義に毎日やってくる緑間が「明日は先輩が来るそうだ」つって言い出したのは、週末の話だ。
「もしかしてバスケ部の?」
「ああ、オレたちが一年時、三年だった先輩方なのだよ。スタメンのな」
「……そういえばオレらは一年のときからスタメンだったんだっけ」
緑間から聞いた話によると、オレたち二人は一年の夏に既にレギュラー入りしていたらしい。
そう改めて考えるとなかなかすごいよな。二年三年を差し置いて試合に出てたんだろ?
自分のこととはいえ全然ピンとこないけど。
「……ところでさ、緑間はどんなバスケをするの?」
「は?」
「や、いつも練習の様子とか後輩の話はしてくれるけど、緑間自身の話はあんま聞かねーから」
「……それは高尾が……、オマエなら、それを望むだろうと」
「……え?」
オレ、なら?
つまり、それは。
一瞬ぶつかった視線はするりと外れていく。
そうだった。
あまりの心地好さに忘れていたけど、コイツは早くオレに記憶を戻して貰いたくてここに来ているんだった。
「……あの、ごめんな」
オレの謝罪の言葉に一瞬目を見開いたあと。
「いや……オレの方こそ、すまない」
そう小さく呟いた。
ちょうどその時。
気まずさに包まれた病室の空気を裂くようにノックの音が聞こえて、オレはこの状況を打開してくれるならこの際何でもいいと言わんばかりに「どうぞ」と声を掛けた。
「……っ」
「……よぉ、」
静かに開かれたドアの向こうにあった姿は、
目を覚ましたあの日に見た、蜂蜜色。
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