(三)






「……」

「……、あー、あのさ」





やんわりと口を開けば緑頭の気難しそうな男は分かりやすく肩を震わせた。

ちょ、こちとら仮にも病人なんだからそんなビビんなくても捕って喰いやしねーっつの。
しかもオマエみたいなデカイやつ、捕獲すら戸惑うわ。





「……、オレは緑間真太郎。高尾、オマエとは部活のチームメイトなのだよ」

「ブフォ!!ちょっ、え、その語尾なに!?な の だ よ……!!」

「……オマエ、本当に記憶喪失か……?」





持参した花を花瓶に挿しながら緑間クンが呆れたような視線を寄越す。
いやいやマジだよ、ごめんけど何部?と軽い調子で尋ねたら僅かにその整った顔が歪んだ。
あらら、デリケートゾーンだったかな。





「バスケ部だ」





何か引っ掛かるようなでも靄がかかったように思い出せないその何かに不快感を抱きながら、オレは記憶の戻る切欠になればと笑顔で口を開いた。





「ね、良かったら部活の話、聞かせてくんない?」





頷いた彼はベッドサイドのイスに腰を下ろす。
姿勢ちょういいなオイとどうでもいいことを考えてたら「高尾、オマエはPGでありチームを導く存在なのだよ」といきなりとんでもない発言をもらった。





「えっ、ちょっと待って?え、ええ?!オレそんな重要人物だったの?!」





慌てて遮ったオレに向けられた深緑の双眸は澱みを知らないかのように真摯で。目は口ほどにとか言うけど、緑間という人物の本質がその瞳に見えたような気がした。





「少なくとも……オレにとってはオマエは、無くてはならない選手だ」

「……っ」

「プレッシャーを掛けるようなことはなるべく言いたくはないが……高尾、オマエには一刻も早くチームに復帰してほしいと思っているのだよ」





焦燥のような、熱情のような。
複雑な感情をぶつけられて。





オレはイエスともノーとも言えずにただ、その瞳を見つめ返すばかりだった。








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