(二)





『高尾 和成』



それがオレの名前らしい。



ベッドのネームプレートに記入された患者名にそう記されていたからたぶん、そうだと思う。

他人事のようにその名前を眺めながら、さっきオレの両親だという人たちと医者から聞いた話を思い出してみる。





オレは高校三年に進級する年の春、外出した先で信号無視の車にはねられ頭を強打した。
幸い他に大きな外傷は無く頭自体もカチ割れたとかじゃなかったけれど、頭の内部、つまり脳にダメージを受けて記憶を司る大事な部分をやられちまったそうだ。

『恐らくキミは、逆向性健忘だと思われます』

医者はそう言った。

自分に関することは何一つ思い出せない。それこそ産まれたときからの一切が。
でも社会的な出来事は憶えている。
その他の目立った意識障害や周辺症状が見られない。
そういった様々な要因から導き出されたオレの今の状態。

簡単に言えば、ドラマとかでよく見かける「記憶喪失」というやつだと。

幸か不幸か、あんだけ派手な事故にあっといて……といってもオレは覚えていないけど……その健忘なるもんだけで済んだのは奇跡だとか、このパターンは記憶が戻る症例が多いから気を長く持って頑張って行きましょうとか言われてオレの両親だという人たちは泣いていた。
オレのこの現状を良かったと取るか否かは大いに人によるだろう。



そうして最後に暫くは入院が必要であると説明を受け病室に戻されたオレは、これだけの情報を得て存外落ち着いている自分自身に少しだけ驚いていた。

元来どういった性質の持ち主だったかすら今は知り得ないけれど、悲観的に考えてもしょうがないと。

わりと逆境に強いタイプだったのかね、と少し笑った。





そしてその日は、そういえばオレが目覚めたときに病室にいた人はいったい誰だったんだろうなと思いながら、眠りに就いた。










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