(十七)
気がついたら、ベンチに横になってて。
向こうでバスケットボールの弾む音とか皆の声が聴こえてきたから、たぶんそんなに長い時間は経ってないんだと思う。
「気がついたのか」
「…、宮地サン」
ゆっくり身体を起こして顔を合わせれば、傍らに立つ宮地サンは少し気まずそうに目線を彷徨わせた。
「……オレ、宮地サンと、約束してましたよね……?」
「……っ高尾、オマエ!思い出したのか?!」
他所へ向いていたその明るい瞳がオレに向く。
だけど、オレは小さく首を横に振った。
はじめて、あからさまに、宮地サンの表情が曇る。
「すみません。……何か、部分的な記憶は掠めてて、そうなのかなって」
「いや……オレの方こそ、悪い。オマエに……」
「ね、宮地サン。宮地サンがオレに優しかったのって、罪悪感とか、そういうのですか」
「……は?」
自分で思ってたより声が震えてビビったけど、返ってきた低い声にも驚いた。
でもオレは言葉を止めない。
「一瞬、思い出した記憶のなかで……宮地サン、オレが事故ったそこに、いましたよね?ていうか、オレはその日、貴方に会うために出掛けた……そうじゃないですか?」
「……っだから、オレに会うために出掛けた先で事故にあったから、罪悪感でオマエの傍にいた。そう言いてえのか?高尾」
すげえ睨まれるけど怖くないよ宮地サン。
これは、オレのためにも確認しときたいことだから。
「コイビトだって言わなかったのは、そっちの方が都合が良かったからですか?オレの記憶がなくなって、ホッとした?」
「ふざけんな……ッ!!」
「……っ」
がっ、と音がするくらいの勢いでベンチに肩を押し付けられて。半ば押し倒される態勢で見下ろされる。
見上げたら、宮地サンの綺麗な目がすぐ近くにあった。
ただ、その事実に、心が震える。
「っざけんなよマジで、オレは…っ、オマエとの約束を忘れた日なんてねえぞ!…オマエに、ちゃんと、言うっつったろうが!!」
「……、なんて言うつもりだったんすか?」
「だから!ちゃんと、」
自然と笑みが浮かんだけれど、感情的になってるらしい宮地サンは気づかずに続けた。
「ちゃんと……ッ、好きだって!!」
「オレも大好きです、宮地サン!」
「…………は?」
思いっきり腹筋使って目の前の体に抱きついたら、呆然としたまま抱きしめ返された。
あー、幸せ。
「もー宮地サンってばいつまで経っても好きって言ってくれないから高尾ちゃん不安で仕方なかったんですよー?とんだ焦らしプレイだったわー」
「…………オイコラちょっと待て」
「はい?何ですか??」
「オマエ…………思い出したのか?」
「え?さっきベンチから起き上がった時点で全部思い出してましたけど??」
にっこり笑って告げたら、ぱちぱち瞬きしたあと。
「……ッ高尾ォォォ!てめえ騙しやがったなぁぁぁぁぁ!!!!」
宮地サンの激昂が辺りに響いた。
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