図書館





(※帝光高尾くん)







静かな図書館には見える範囲でも数人しかいない。
その中で黙々とテキストに向き合う和成をそっと見つめた。

机を隔てて、すぐ目の前にいる和成。
必死でノートに数式を書き込んでいるからボクにはその伏せられた瞼しか見えない。
彼の明るい瞳が見れないのは、少し残念だ。





「……、あ」





ちょうどそんなことを考えていたとき。
不意に下を向いていた和成の目がボクを捉える。
零れた呟きに自分でも気づいたのか。視線が合った瞬間に照れ笑いを浮かべる彼が、とても愛しく見えた。





「赤司、ちょっとここ、わかんないんだけど」

「そうか」

「……すみません教えてくださいお願いします」

「ああ、」





少しの意地悪に拗ねたように唇を尖らせるその仕草も愛らしくて、静かに笑みを零す。

こんなにも愛惜しいと思える存在と、ボクは此れから先の未来で出逢えるのだろうか。

考えても答えの出ないその問いを、和成と出会ってから何度となく繰り返してきた。
でもきっと。
和成に同じ問い掛けをすれば、彼は笑って肯定するのだろう。

自分なんかよりも、もっと、と。





「赤司の勉強時間、とっちゃってごめんな」





彼は自己評価が低い。
態々、和成の為に時間を提供している訳ではないのに。ボク自身がオマエと居たいからこの時間を創っているんだよ。

そう思いはしても、それは口にせずにいた。





きっと、その言葉は悪戯に和成を困らせるだけだと知っているから。








「あ、そういえばさ!こないだの試験で一教科だけ真ちゃんより点数高かったんだけど」

「和成が、か?」

「そう!真ちゃんってば「信じられない……あり得ないのだよ!」とか言って」

「ふっ」

「あ、似てた?今の」

「ああ、なかなかのクオリティだったぞ」





嬉しそうに笑う和成だがボクの心中は複雑だ。

ほんとうにオマエは真太郎が大好きだな。

そう笑えたら楽なのだろうけれど。





「やっぱ何やかんやクラスも同じ真ちゃんといる時間がいちばん長いからね」

「そうだな、」

「ほんとはもっと皆と話したいんだけどさ。赤司とももっと一緒にいたいと思ってるのに委員会とかで忙しいし……」

「……、そう、なのか?」

「……っあ、いや、今のはっ、その、聞かなかったことにして!赤司に無理に時間つくってもらいたいとかいうあれじゃないから!」

「ああ、あの……そうなのか」





慌てたように此方を見つめる瞳。
その微かに朱に染まる頬につられるように、心拍が上がった気がした。





「和成、ひとつだけ、我が儘を言っても構わないか?」

「え……?」





期待をしたり、見返りを求めたり。

我ながららしくないと思うけれど。



どちらともなく触れ合った指先は、確かに無意識の内の好意を滲ませていた。








「もっと、傍にいたい」








(発展途上の感情のうえで)












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