明け方の電話
耳慣れた着信音。
完全に前後不覚気味のままだけど反射的に通話に応じる。
「ん……はい、もしもしぃ……、?」
『もしもし、すみません高尾君。起こしてしまいましたね』
「んぁ、…黒子……?」
眠い目を軽く擦って体を起こす。
のろのろとカーテンをひっぱって外を見ると、空がうっすらと白みがかっていた。
え、いま、何時?
『4時半くらいです。こんなに朝早くに電話するつもりじゃなかったんですが、』
心の声が漏れたらしい。
黒子が至って静かな声で時間を教えてくれる。
ベッドには戻らず窓を開けたら、夏とは思えない涼やかな風が入り込んできて髪を揺らす。
「何かあった?」
やっと覚醒してきた頭で尋ねれば、感情の読みにくい黒子の声がオレの名前を呼んだ。
『高尾君、空が見えますか?』
「おー。見えてる見えてる」
『まだ月や星が輝いているのに、空は青くなり始めていますね』
「ん、東の方はだいぶ明るくなってるなぁ。あの空の色、黒子みたいじゃね?」
『え、』
「きれいな、水色」
太陽が昇ると同時に輝き出す透き通った空色は、黒子の姿を思い出させる。
ふと零れた笑みは向こうに聞こえただろうか。
そんなことを考えていたら、また名前を呼ばれた。
『高尾君』
「うん?」
『……、ボクは、どんどん欲張りになっていくんです』
「黒子、が?」
黒子が言い澱むのも珍しいし、“欲張り”というワードがあまりにも黒子と一致しなさ過ぎて、思わず聞き返してしまう。
柔らかい口調のまま、黒子は続ける。
『初めは、声が聴きたいと思った』
『声を聴くと、今度は会いたくなる』
『きっと会えば、触れたい、抱き締めたいと思うんです』
『際限なく、ボクは高尾君を好きになっていく』
どうすればいいですか?
静かな問い掛けに、オレは少しだけ考えてから。
もう一度空を仰いだ。
すっかり辺りは明るくなっている。
「黒子」
『はい』
「とりあえず、今日会うってのはどう?」
『……いいんですか?』
「空みてたら、何か黒子に会いたくなったわ」
だから、会いに行くね。
そう告げれば、答えた黒子の声が少しだけ弾んだ。
「あのさ、オレもおんなじだよ」
『え?』
「オレも欲張ってっから、色々」
一方的じゃないんだよ、って。
それだけ伝えときたくて。
「ね、黒子。夜が明けたよ」
(ほら。太陽が顔を覗かせた)