バスケットコート
「なぁオマエ、何してんの」
「ただいま高尾くんはぜっさんお取り込み中なので放っておいてください」
「……、あー……なんだ、その……とりあえずバスケするか?」
「……、うん、それが青峰なりの気遣いってのはわかってる。わかってるんだけどね。バスケ以外の選択肢なかったの」
いつものストリートバスケのコートに来たら、見覚えのある奴がベンチに凭れていた。
いつも勝ち気そうに光る橙の目は手で隠れていて見えない。
どっか具合でも悪いっていうよりも。
なんかにぶち当たって参ってます。
そんな感じに見えた。
めんどくさそうなのは一目で分かったのに何でわざわざ声掛けたのかと聞かれたら、ただ、なんとなく興味が沸いたから。
それだけだ。
「高尾」
「てか青峰、オレのこと知ってたのな」
「緑間んとこのPGだろ」
「……っ」
ああ、コイツが滅入ってんのは“緑間”が原因か。
漠然とそう思ってから改めて高尾を見ると、やっと顔を上げたその瞳は自信無さげに揺らいでいた。
「何だ、緑間とケンカでもしたのかよ?」
「ははっ、ケンカって。小学生じゃないんだからさ」
乾いた笑いがムリしてんのを助長させてるってコイツ自身は気づいてんのか。
「まぁ……よくわかんねーけど、元気だせよ。よくわかんねーけどな」
「はっ?」
高尾と緑間は、帝光時代でいうとこのテツとオレみたいなもんだと。オレは勝手に思っていた。
テツの悩みはきっとオレにはわかんねー。
だからたぶん、オレに高尾の悩みを理解すんのはムリだと思う。
あんまりと言やあんまりなオレの言葉にも、高尾は呆れるでもなく怒るでもなく。
ただ柔らかく笑った。
その表情は一見テツに似ているようで、全く似ていない、静かな拒否の笑顔だった。
だから、オレは。
「青峰、ありがと」
その言葉を遮るように。
音もなく引かれたその拒絶のラインを思い切り踏みにじってやった。
大きく高尾の方へと踏み出し、驚いて固まるその体を引き寄せて。肩口に顔を埋めるように首筋に噛み付く。
「ぃ、っぁ……!なっ、にすん…だよ!」
身を捩って腕から脱け出した高尾。
不愉快さを隠しもせずに曝すその姿を見て、笑ってみせた。
「なぁ高尾。緑間やめて、オレのもんになれよ」
それがすべてのはじまりだったなんて、高尾もオレも、まだ気づかない。
(転がったバスケットボールの行方はだれも知らない)