部室
部活終わりに真ちゃんはさっさと帰っちゃうし木村さんに体育館の戸締まりは頼まれるしついてねー、と部室に戻ったら。
宮地サンがいた。
少しだけラッキーだと思いながら、いつもの調子で話し掛けたら。何でか急にベンチに押し倒されて訳のわからないままに唇を重ねられていて。
いやいやいや意味がわからないっすよとつっこもうと開いた口は宮地サンの舌の侵入をあっさり許し。入ってきたと思ったらなかを好き勝手荒らし回るもんだから、経験したことのない深いそれにあっという間にオレの息は上がってしまった。
すっかり力が抜けて、されるがままに成り下がった頃。
宮地サンが身体を起こして、長い長いキスはやっと終わった。
覆い被さるようにこっちを見下ろしてくる目が、あまりにも真剣だったから。
何か不覚にも泣きそうになる。
いや生理的にもう若干泣いてるけど。
「高尾……悪い」
「……は、ふ……っあ、謝るならっ、最初っから、しないでくださいよ!」
「仕方ねえだろ、なんか、したくなったんだから」
「なんす、か、それ」
バツが悪そうに蜂蜜色の髪をわしゃわしゃと掻く宮地サン。
さまになってるなーとか場違いなことを考えてたら、今度はデコに優しくキスされた。
さっきの口のなか貪るようなそれとは、全然ちがう。
「……っ、な、何なんですか、さっきから!」
「悪い。ぶっちゃけさっきのは、むしゃくしゃしてやった」
「ブフォ!ちょ、どこの犯罪者」
思わず噴き出したら「笑うな」と頭を乱暴に撫でられる。でもちゃんと力加減してくれてるのか、痛くはない。
むしろ心地好さすら感じるそのおっきな掌に身を委ねていると、今度はそっと目元を拭われた。
「オレは……あいつみたいに優しくなんて、できねえよ」
「へっ?」
吐き捨てるような呟きは拾うに小さすぎて。
ぱっと顔を上げたときには宮地サンはもう笑っていた。少しだけ、苦しそうに。
「高尾」
名前を呼ばれたら、心臓の辺りがくすぐったくなる。
こんだけ有り体に感情をぶつけられて鈍感のフリができるほど、オレは大人じゃないよ、宮地サン。
そっと両手を差し出して、宮地サンの頬に添わせる。
驚いたみたいに見開かれた瞳が、やっぱり真っ直ぐにオレを捕らえていた。
「宮地サン、言葉で、下さい」
「……、は?」
「ちゃんと、言ってください」
「……っ」
確信がほしい。
躊躇いをみせた宮地サンをありったけの感情をこめて見つめれば、まだ迷いを残したままの唇が、微かに震えていた。
「……、好きだ」
静かに降ってきた言葉に笑みが零れる。
「オレも好きです」
ほら。
気持ちが繋がった。
(…………、は?)
(は?ってなんですか!あんだけ熱烈なちゅーまでしといて!!)
(いや、だっておま、緑間が好きなんじゃねーのかよ!)
(?緑間は好きですけどただの相棒ですよ?)
(…………、まじかよ……オマエ、そういうことはもっと早く言えよ……)
(へ?)
(……ムリヤリ、して悪かった)
(あ、いや、まぁ宮地サンだったから別に)
(……高尾…オマエ……ほんとオマエ……)
(はい??)