CDショップ
「「あ」」
CD取ろうとしたら手がぶつかるとか。休日だからって気を弛めすぎて視界狭まってたわー、っつうかどこの少女漫画シチュエーションだよ(笑)
と心の中で散々ツッコンでから横を見たら笠松サンだった。
「えっ、あ、笠松サンこんにちは!」
「おぉ……奇遇だな」
「笠松サンもこのバンドの新譜買いに来たんですか?」
さっき取り損ねたCDを手にとって見せたら笠松サンの表情が柔らかくなるのが分かる。
もしかして、結構好きなのかな。
「オマエもか?このバンド、全体的にいいんだけど…ギターがな、特にヤバイ」
「あ、そういえば笠松サンってギターされてるんですよね」
「っ、何で知ってんだオマエ……」
「月バスの記事で読みました!」
にっこり笑って答えたらさっと反らされた視線。たぶん、照れてんだろうなーと思うけど気にせずCDのジャケットに書かれた名前を見ながらオレは更に言葉を続ける。
「オレあんま楽器詳しくないんですけどこのバンドのメロディ好きで。確か作曲ギターの人なんでしたっけ」
「ああ、こんだけ自在に音を操れたら……きもちいだろうな」
尋ねれば、笠松サンも視線を貼り出された広告用のポスターに向けながらぽつりと呟く。
憧憬のような声の響きに少なからず驚いていたら、照れ臭そうにCDを手に取った笠松サンはさっさと背を向けてしまった。
慌てて追いかける。
「ねっ、笠松サン文化祭とかでバンドやったりしないんすか?」
「はぁ?!やんねーよ!つうか部活でそれどころじゃねえし……」
「ええ……もったいないなぁ、笠松サンのギター生で聴いてみたいなぁ」
「……っ」
この人は、どんな音を奏でるんだろうか。
まっすぐに突き抜けるような、熱いメロディだろうか。
そんな妄想を膨らませてたら不意に立ち止まった笠松サンが僅かに躊躇う素振りをみせたあと、そのおっきな瞳をこちらへと向けた。
どくんと心臓が跳ねる。
「……アルバムの三曲目、覚えてきたら弾いてやるよ」
「えっ?」
「……っ、オマエが歌うならオレがギター弾くっつったんだよ!」
え。えええ!!!?
驚いて言葉が出ずにいるオレを思いっきり放置してレジに向かおうとするからその腕をひっぱって引き留める。
「お、オレ別にボイトレとかやってませんよ?ただのカラオケ好きくらいのクオリティですよ?!」
「はぁ?ンなの関係ねえよ」
振り向いた笠松サンが、笑った。
「オレ、高尾の声、好きだし」
なんですかそれ。
もうなんて男前ですか。
ていうか。
(……っ最高の口説き文句!)
帰ったら、三曲目から聴こうと心に決めて。
オレはレジに向かう笠松サンの背中を追った。