保健室







目が覚めたら見たことあるようなないような白い天井。

あれ?保健室、だよなココ。

ぼんやりする意識を覚醒させるように身体を起こそうとしたら、仕切りのカーテンが無遠慮にシャッと開かれた。





「高尾、いつまで寝ているのだよ」

「ブフォ!ちょ、真ちゃんなにそのカッコ!」





カーテンの向こうに立っていたのは仏頂面のエース様で。ただ、服装が、明らかにおかしい。





「何で白衣着てんの?え、コスプレ??」





オレの一言に眉間のシワを更に増やした緑間が、ゆっくり口を開く。





「保険医が白衣を着ているのに何の問題もないだろう」

「は?」

「それに教師に対してその口調はやめろといつも言っているのだよ」

「……へ?」





え。何言ってんの。
保険医?教師?誰が??

ぽかんとしてたらため息が降ってくる。
心なしか見上げた顔がオレの知っているものより大人びているような気がして。オレは思わず「え、真ちゃんだよね?」と尋ねた。





「……その呼び方もだ、高尾。今は人がいないから兎も角……他の教師に聞かれたらどうする」

「……っ」





呆れた表情のままするりと頬を撫でられたとき。その指に、いつものテーピングが見当たらないことに気づく。

緑間が、緑間じゃない。
いや確かにコイツは緑間なんだけど、オレの知ってる真ちゃんじゃない。

漠然とそんなことを考えてる内にそっと身体をベッドに押し戻され、気がつけば覆い被さるように上に乗られていた。
ってオイコラ待ておかしいだろなにこの態勢。
パッと見、完全に押し倒されてんじゃんオレ。





「あのー…緑間さーん??」

「そうやって、無防備にオレに近づいて……煽るな」





いやいやいや煽ってねーよつうかおかしいってなにこの状況。





「えっ、ちょっタイム!タイムくださーい!ちょっと待ってよくわかんねーけど今の緑間は先生なんだろ?ちょっとこの態勢はマズイんじゃねえのあの色んな意味でね!!」





目の前の胸板をぐっと押し返すけどビクともしない。わーまじムカつくわー。
それどころか、呼吸すら戸惑うくらいの距離まで緑間の顔が近づくもんだから。
オレは思わず目を閉じる。

そしたら、そっと、耳元に息がかかった。








「……生徒だからといって、何をしても手を出されないと思ったのか?」








笑み混じりの囁きに、無意識に身体が震えた。



遠慮なしに重ねられた唇に息を乱される。

こんな禁断のシチュエーション的展開をまさか緑間相手に体験するなんて思ってなかったわ。

アホみたいに冷静に脳内でツッコンでいたら一瞬唇が離れて、薄く目を開けたら翡翠のような瞳がまっすぐにオレを見下ろしていた。





「……好きだ」





ポツリとこぼれおちた言葉に。

ぱちんと何かが弾けるような音が聴こえた。















瞬間。



今度こそ、目が覚めた。
見上げた先にある白の天井。





「……高尾、いつまで寝ているのだよ」





ベッドの傍に立っていたのはよく知る学ラン姿のエース様で。





「……真ちゃん?」

「?なんだ」

「真ちゃん、まだ学生だよな?」

「まだ寝ぼけているのかキサマは」





呆れた視線にへらりと笑い返したら、思いっきりデコぴんくらった。










とある放課後のなんてことはない夢の話。










(真ちゃんが先生やってる夢見たんだけど)
(意味がわからないのだよ)
(高尾くんってば夢のなかの緑間先生にも熱烈なちゅーされちゃっ……っん、)
(……)
(……ン、はぁ……ちょ、いきなりなに?)
(……何でもないのだよ。部活に行くぞ)
(はいはいツンデレごちそうさまです)








「あ、ねえ真ちゃん」





呼び掛けたら嫌そうな表情をしながらも振り返ってくれたから、オレは駆け寄ってその隣に並ぶ。





「真ちゃんが先生っていうのも、悪くなかったわ」

「オレは保険医になるつもりは毛頭ないのだよ」

「えー、でも白衣けっこう似合って…………あれ?オレ夢のなかの真ちゃんが保険医だったって言ったっけ?」





慌てて見上げた緑間が、微かに笑った。








(なんてことはない、夢のはなし?)











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