眼科
まさか秀徳の選手とこんな場所で会うなんて、偶然にも程がある。
「高尾……メガネを買うのか……?」
「あ、伊月さん」
いつも通っている眼科に入ったら見知った人物が待合室でぼんやりしていたので思わず声をかけてしまった。
名前を呼ばれてはじめてこちらに意識が向いたらしい。気づいた高尾はいつものように人懐こい笑みを浮かべた。
「オレは眼鏡じゃなくて定期検診ですよ」
「ああ……オレと同じか」
「ていうか同じ眼科だったとか!もしかして何度か会ってたかもしれないですねー」
「本当にさっき見つけたときは驚いたよ」
自然と隣に座って話し出す。
こうしてたら、オレ達もただの男子高校生だよな。
「いや実は……伊月さんだから言っちゃいますけど、最近ちょっとハリキリすぎちゃったせいか偏頭痛みたいな眼底痛みたいなんがひどくて」
「高尾もか…?」
「えっ、うそもしかして伊月さんもですか?」
「ああ……なんていうか、こう、眼球の奥というか裏というか、その辺が痛むときがあって」
「うっわ!分かりますそれすっげえわかる!!」
ただ会話の内容があれだけど。
ハッ。
オレ達の会話、男子高校生の会話“内容”じゃ“ないよう”……キタコレ!!!
「まぁでも、」
オレが脳内で最高のダジャレを思いついて高尾に披露しようか考えていたら。
不意に笑った彼の鷹の目が、ついとオレを捕らえた。
強い眼差しだと、いつも思う。
息をするのすら戸惑うくらいの、視線。
「どんな痛みや恐怖が付きまとっても、この目を使うことを、躊躇ったりはしないんですけどね」
「……ああ、オレもだ」
たぶんそれは、小さな秘密の共有。
似た目の能力を持つオレ達にしか分からない。
ただただ、漠然としたものへの。
「もし少しだけ不安になったら、伊月さんに相談してもいいですか?」
悪戯っぽく微笑った高尾に、オレも似たように笑い返した。
「じゃあオレも不安になったら、」
出逢えた小さな共犯者に。
相談をしようかな。