外で偶然








「あら」

「あ、実渕サン」

「やだ、運命かしら……」

「偶然ですね!ちょう偶然!!」





偶然を強調してきた高尾くんにニッコリ笑いかけると「すんません運命ですね」と笑顔が返ってくる。
素直な子は私、大好きよ。

チームメイトにストリートバスケに誘われてあまり乗り気じゃなかったのだけれど……ほら、この時期の紫外線って強烈でしょ?でもまぁ彼に会えたからヨシとするわ。





「高尾くんもストバスに参加かしら」

「はい、実渕サンもですよね」

「ええ」





他愛ない話をしながらコートの方へと歩いていたら、ふと立ち止まった高尾くんが「ちょっとすみません」と近くの自販機に駆けていく。
そのまま迷うことなく『おしるこ つめた〜い』を購入した彼に思わず訝しげな視線を送ってしまった。
何そのセレクト。何で夏に態々、というか自販機で態々おしるこを買う意味はあるのかしら。

色々とつっこみたいところを黙って見つめるに留めていたら、振り返った高尾くんが私を見て笑う。
そうだった。彼は後ろにいる人の表情も視えるんだったわね。





「相棒が好きなんですけど……おかしいっすよね、夏なのにおしるこ飲むとか」





つうか夏でもおしるこ置いてる自販機とか初めて見ました、と笑う彼の表情があまりに可愛くて。
まるで恋する乙女じゃない。と無意識に思った。

相手は、おしるこのキミ、かしら。

何か微妙にダサい気もしなくもないけど。
たぶん彼が好意を持つ相手ならきっと、それなりの男なんでしょうね。





「羨ましいわ」

「へ?」

「何も言わずに自分の好きな飲み物買ってきちゃうような相棒がいる、おしるこの彼が、羨ましいわ、って」





微笑みかければ驚いたようにその瞳が見開かれる。
そして、ぱっと目を反らした彼の頬は、赤く染まって。





「……え、うそ、照れてるの?」

「…そこは気づいてもスルーしてくださいよぉ……あーもうハズいちょうハズいオレ……」





なに信じられないくらい可愛いんだけどこの子。



凝視する私の視線から逃れるように歩き出した高尾くんの背中を見つめて、少しだけ悩んだあと。
私も自販機でペットボトルのドリンクを購入する。

後から私が来ていないのに気づいたらしく立ち止まって待っていた高尾くんに、そのドリンクを手渡したらまた驚いた顔をされた。





「え、え?実渕サン、これ」

「ふふ、私からの細やかな応援のシルシ、かしら」

「……え、あ……っ」

「熱中症には気をつけてね」





笑いながら告げれば、恥ずかしそうにしながらも小さくお礼を告げてくる。ほんとに可愛い子。





「万が一アナタが恋に破れたら、私が慰めてあげる」

「あはは……そうならないことを祈ります」








(あなたに幸多からんことを!)







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