時は秀徳学園祭。
高尾っち(と嫌々感満載の緑間っち)に招待を受け、オレらキセキのメンツは揃って秀徳に来ていたのだけれど。
高尾っちが喫茶店をやっているというクラスに先んじて……フライングともいう……やって来たオレは今、高鳴る鼓動を抑えきれずにいた。





「黄瀬くん、大丈夫?」

「ひゃい!!」

「あははっ!ひゃい、って!」





笑顔が眩しい彼女。
健康的な色の肌にうっすら施された化粧は派手すぎず、清潔感のあるセミロングの黒髪が胸元でフワリと揺れる。前髪からサイドにかけて控え目に編み込みされてて耳元にちょこんと留められたオレンジ色の花のバレッタが何というか、彼女の雰囲気に似合いすぎていて。

目が離せない。
いや離したくない。

どっかの安っぽい歌詞みたいなのが脳裏を過る。
高尾っちに会いに来たのに、オレ、何で初対面の女のコにこんなときめいちゃってるんだろ。





「可愛いっス……」

「ん?何か言った?って、その前に仕事しなきゃね!御注文はお決まりでしょうか!」





花が咲くような笑みで尋ねられ思わず「じゃあキミで」と言いかけたところで、後頭部に衝撃を受けて机に突っ伏す。





「ったぁ…!ちょ、今何かぶつかったんスけど!」

「おい黄瀬ェ!勝手に一人で先行ってんじゃねえぞ!」

「黄瀬君、それはさっき青峰君が隣のクラスのダーツの景品でもらったポケット英和辞書です」





教室にどかどか入ってくる青峰っちとフツーに静かに入ってくる黒子っち。
やれやれと床に落ちた凶器の辞書を拾おうとしたら、すらりとした指が先にそれを拾い上げていた。





「もー、物を投げちゃダメっしょ」

「「!!!」」





二人の歩みが止まった。

まさかと思い慌てて顔を上げたら、案の定彼らの視線は彼女に釘付け。オイオイいくらなんでも不躾に見すぎっスよと声をかけようとしたとき。
彼女は特に気にした様子も見せず青峰っち達を席へと促した。





「せっかく来てくれたんだから、ゆっくりしていって!何飲む?オススメはラズベリージンジャーだよ」

「ではボクはそれで」

「あ、オレも」

「はーい!黄瀬くんは?」

「あっオレも同じので……!」

「え、皆同じでいいの?」

「「「はい」」」





満場一致のオレらに一瞬キョトンとしたあと、彼女はさっきの笑顔で「では少々お待ちください!」と厨房側らしい教室の奥の方へと姿を消してしまった。
メイド服のスカートのフリルがふわりと舞う。その愛くるしい後ろ姿に無意識の内にほぅ、と息が漏れる。





「……くっ、ボクとしたことが高尾君以外にこうも胸をときめかせてしまうなんて……!」

「あれはやべーよ。テツ、安心しろオレあの笑顔で勃つかと思った」

「青峰っち……」

「青峰君……キミと一緒にされるのは心外です……」

「はぁ何でだよ?!……や、つうか高尾のクラスにあんな可愛い女子いたんだな」





高尾っちに会いに来たはずが、オレたちは揃いも揃って秀徳の天使(今命名)に夢中になっていた。





(いやしかしあれは仕方ないっス。だっていくら高尾っちが天使とはいえ、やっぱオレも男だし女のコにきゅんきゅんしちゃうのはというかぶっちゃけ反応するもんが反応しちゃうのは…!……ち、違うっスよ青峰っちとは違うっス!!)





悶々と彼女の帰りを待っていたら教室の入口の方がざわついて。
視線を向ければ赤司っちと紫原っちが歩いてくるのが見える。





「紫原君……その腕に抱えたお菓子の山は……」

「んー?赤ちんが将棋部のチャレンジコーナーで勝った景品〜」

「根こそぎ奪ってきたのかよ…とんだ迷惑な客だなオイ……」

「何か言ったか大輝?」

「イエナニモ」





当然のようにオレらが座ってるとこへやって来て席につく赤司っち達。

ちょうどそこへ、トレイにジュースを4つ乗っけて戻って来る彼女が見えた。
何か危なかっしいなあと見ていたら、スッと席を立った赤司っちが彼女の手からトレイを拐う。





「えっ」

「女性にこんな重いものを運ばせるのは頂けないな……しかもキミのように愛らしい女のコなら尚更だ」

「は……?」





「「「!!!!!」」」





し ま っ た 。





これは赤司っちの好感度アップ間違いなしじゃないっスか!何をボーッとしてたんスかオレはぁぁぁ!!!彼女も赤司っちのあまりのスマートさに固まっちゃってんじゃないスかぁぁぁぁぁ!!!!



心の中で嘆くオレ。とたぶん青峰っちと黒子っち。稀に見る悪人顔になってる。

出遅れ感が尋常じゃなく何も言えないオレたちをよそに、でっかい図体でお菓子を貪っていた紫原っちが不意に口を開いた。




「わー、高ちんメイドさんなの?ちょー可愛い」

「高尾っちのメイドさん…っ!?」

「ミニスカか!!!」

「高尾君がメイドさんとか可愛いに決まってるじゃないですかドコですか?」

「は?目の前いるけど」





「「「「は?」」」」





「……えっ?オマエら気づいてなかったの?オレ、絶賛メイドちゃんなうな高尾くんですけど」





「「「「え?」」」」





え。つまり、え。

さっきまでオレが天使だと思っていた彼女、は。





「高尾、いつまでそいつらに構っているのだよ。そろそろ交代だ」

「あ、はーい。真ちゃんありがと!しかしヅラあっついわー」





呆然としていたら、ばさりとヴィッグを外したいつもの高尾っちが現れて。

花みたいな笑顔を浮かべた。





「みんなゆっくりしていってね!あと赤司トレイ持ってくれてありがとな!」

「一応客の前でヴィッグを外すのはどうかと思うぞ」

「あはは!ごめーん」





そうか。

高尾っちは性別とか関係なく天使だった。








(しかし何故紫原君は高尾君だと分かったんですか?)
(えー、なんだろ、匂い?)
(ちょ、オマエ気持ち悪いな)
(大輝にだけは言われたくないと思うぞ……)
(赤司っち、気づけなかったこと地味に気にしてるじゃないスか…)

(しかし高尾、スカートが短すぎるのだよ)
(やだなー、真ちゃんサービスサービス♪)

((((可愛い…))))








(13/8/22)



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