男女問わず一度は夢見たりするシチュエーションに「やめろよオレのために言い争うなんて」とかあったりなかったりするけど、実際問題目の前でやられたら堪らないことをオレは今実感している。
「高ちんはこれからオレと3時のおやつなんだってもーほんと緑ちん邪魔なんだけど」
「下らない冗談を言うな紫原。今から高尾はオレと自主練なのだよ!あと邪魔とはなんだ!」
「邪魔だからジャマだって言ってるんだし。緑ちん邪魔で高ちんの顔が見えないじゃん!」
「馬鹿め。わざとだ」
「うっわ緑ちん性格わりー」
どうでもいいけどオマエらちょう悪目立ちしてる。
あとおやつも自主練も聞いてないからね、オレ。
合宿所でたまたま紫原と鉢合わせて「あ、高ちんだ」「よ、紫原なにしてんの?」って会話してるところに真ちゃんが現れた。と思ったら急に険悪ムードだもんよ。
なにこの二人仲悪いの。
「あ、まいう棒が宙に浮いてる」
「えっ」
「そんな非現実的なことがあるわけ……」
紫原の一言に思わず振り返った真ちゃんとオレ。
指をさしてた方を向いた途端に腕をグンと引かれたかと思うと、次の瞬間には足が床から離れていた。
「わ、ちょ……っ紫原!?」
「はーい高ちん確保。いくよー」
「う、わ、」
オレを横抱きにしたかと思えばいつもの緩い動きは何なのかというほど、地上に降りたナマケモノよろしく素早く走り出す紫原。
「待て紫原ァ……ッ!!」
「ちょ、怖っ!真ちゃんが怖い、んだ、けどっ、主に逆光する、眼鏡が!!」
「ダイジョーブ。オレのが速いし」
「や、そゆ、問題じゃ……っ」
「高ちん、舌噛んじゃわないように気をつけてねー」
走りながら上手く話すもんだなと感心しつつ、オレも一応男子の平均以上はあんだけどそれ抱えて全力疾走できるとか紫原まじ人間超えた、とか思う。
もうとりあえず流れに任せとこうと首に掴まったら、紫原は足を止めずにへにゃりと笑う。
「高ちん、もっとぎゅってしていいよー」
「高尾ォォッ!オマエは何をしているのだよォォォ!!!」
「え、えっ?なにって、落ちたら危ないし、掴まっただけ、なんだけど!」
後ろから聞こえてくる絶叫に振り返ればすごい形相の真ちゃん。
というかここ合宿所の廊下なんだけど。大丈夫なのこれ。全力疾走してんだけどこの巨人2体。
「て、か、……なんでっ真ちゃん、あんな必死で追っかけて、来てんの?」
「……高ちん……意外と鬼畜だよねー」
「えええなんで?!」
なぜか可哀想な子を見るような視線を紫原にもらった。
「高尾!そのまま飛び降りろオレが受け止めるのだよ!!!」
「ぜったいムリだよねそれ!!」
「やる前から諦めるな!人事を尽くせ!」
「なにそのムチャぶり!!!」
「他に尽くすとこあんじゃねーの、じんじ。」
「紫原まさかの正論」
そんなグダグダした感じで、偶然通りかかった赤司に止められるまでふたり(+抱えられたオレ)の追いかけっこは続いたのだった。
廊下を走った罰として、最後は仲良く三人で正座しました。
(てかオレなにも悪くないよね?!!)
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