「あっち……」
「おい宮地、ちゃんと聞いてるか?」
「あー聞いてるきいてる」
「ったく」
呆れたような視線を寄越したあと、大坪はまた部員たちに視線を配る。
今日は、体育祭の部活対抗リレーの話し合いとかで足の速い部員が練習後に呼ばれたわけだが。
正直、眠ぃし腹は減ったし早く帰りてえ。
ふと左隣に座ってた高尾がうとうとしているのが目に止まった。
なんとなく悪戯心が騒いで、テーブル下にあった高尾の指に触れてみる。
「……っ!」
こっちが驚くくらい肩を跳ねさせ目を覚ました高尾は視線こそ動かさなかったけど、その眼の能力か、すぐにオレのことに気づいたらしい。
「何すんですか……!」
小声で尋ねてくるから前を向いたまま「べつに」と返す。
言いながら、触れたままの指で高尾の右手の中指をくるりと弄った。
触れ方を変える度に一々ビクビク反応するから、何か情事のときを思い出させ部室だっていうのに変な高揚感を感じてしまう。
高尾以外、誰も気づいてないこの状況のせいか。
「……ッ!」
弛む口角を必死で抑えていたら、いきなり触れていた指を逆に掴まれて思いきり反応してしまった。
油断していたと小声で高尾の名前を呼んで睨み付けたら。
悪戯っぽい瞳を此方に向けた高尾が、オレにしか分からないようにペロリと舌をだした。
「仕返し、っすよ」
「……っ」
ニヤリと笑う高尾。
くそ、可愛いことしてんじゃねーよ。
もう一度睨んだら今度は屈託ない笑みが返ってきて。
オレが机に撃沈し、大坪に文句を言われるのはすぐあとの話だ。
(木乃伊捕りが、捕まったようです)
(13/8/10)