(※社会人if)
恋の終着点はどこにあるんだろうか。
オレのこの恋は、どこで終わりを告げるんだろうか。
たまにぼんやりとそんなことを考える。
今が幸せであればいいなんて学生時代のような絵空事はそろそろ時効になる年齢に差し掛かっていて。
まるで婚期を気にする女性のように、最近のオレはやたらと結婚という単語に敏感になっていた。
『高尾君は、てっきり緑間君のところに嫁ぐのかと思っていました』
こないだのオフに久しぶりに会った黒子からの一言に上手く笑えなかった自信がある。
教室でいきなりキスされテンパってたオレに
「すまない順番を間違えた。好きだ、高尾。責任はとるのだよ」
と真顔で告ってきた真ちゃんと付き合いだしたのが十年前の秋。
大学時代に通い妻のように飯を作りに行ってたら
「いっそのこと住んだ方が早いんじゃないのか?その方が何かと効率がいい」
と提案してきた真ちゃんがオレの荷物を勝手に郵送しちゃって一緒に暮らしはじめた五年前の春。
就職後に互いの生活リズムがズレたことによるすれ違いで初めておっきなケンカをして、年甲斐もなく大泣きしながら家を飛び出したオレを川原まで追っかけてきた真ちゃんの
「早まるな高尾!死ぬんじゃない!」
の一言に爆笑して仲直りしたのは三年前の夏。
そして一年前の冬。
真ちゃんは朝の挨拶をするように、告げた。
いや、そのときは夜だったけど。
「高尾。一年後、オレは海外に行く」
「は?」
「オマエにも、着いてきてほしい」
一年、考えて、決めてくれと。
そう、言った真ちゃんの瞳はとても真摯で。
オレは黙って頷くことしかできなかった。
あれから、一年が経つ。
「真ちゃん、飛行機は来週だったっけ?」
「ああ」
いつもの朝。
オレの淹れたコーヒーを片手におは朝占いを見る真ちゃんは一週間後に日本を発つとは思えない落ち着きっぷりだ。
というか、海外に行ったら、おは朝占いどうすんのかな。
そんなことを考えながら向かいの席について自分の分のコーヒーを口に含む。
真ちゃんの視線がついと上がって、オレをとらえた。
その柔らかな表情に柄にもなく心拍が速まる。
「高尾」
もう、すっかり耳に馴染んだその声。
いつだって一音も聞き逃すまいと聴覚を研ぎ澄ます自分がいた。
「オマエの淹れるコーヒーは、美味いな」
フ、と珍しく嬉しそうに笑ったりするから、うまく返事ができない。
真ちゃんは昔から変わらずちょっと素直じゃないけど、面白くて優しくて、かっこよくて。
そんな真ちゃんには、きっとオレという存在すらいなければ、素敵な恋人が。そう、このさきの未来も共に恋をしていける彼女だって見つかるはずなんだ。
だから、
オレは、
「高尾。オレの為などと身を引くのだけは許さないのだよ」
「へっ?」
まるで、オレの考えを先読みしたかのような言葉に、思考が止まる。
さっきまでの笑みは消えていて、一年前と同じまっすぐな視線がオレを射抜いた。
「高尾、結婚しよう」
ぐるぐると考えていたことは、真ちゃんのそのたった一言でぜんぶ消えてしまった。
オレの恋は、その日、終わりを告げたんだ。
「オマエと、離れるなど、もう考えられないのだよ」
真ちゃんの言葉で、恋は愛へと形を変えたから。
そっと傍に寄って、そのおっきな体を抱き締めた。
「真ちゃん」
「ああ」
これからも、この先も。
ずっと、ずっと。
キミを愛しています。
(囁いた言葉は、きっと二人の想い)
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