(※完全なるパロディ)
(※高尾くん孤児〜のキセキ共に社会人設定)
(※赤司家が明治〜大正の上流階級なイメージ、時代背景もその位)
「和成が、いとおしくて堪らないんだ」
「だとすれば、赤司君。キミは和成君を早く自由にさせてあげるべきではないでしょうか?」
淡々とテツヤから告げられた言葉は事実であり、ボクの心臓を抉る。
其だけでは済まさないと言わんばかりにソファに凭れた大輝が気だるそうに口を開いた。
「そもそもカズは何も知らねんだろ?そんなん、騙してるのと同じじゃねえか」
「青峰、口を慎め。あの件に関しては赤司が直接的に手を下した訳ではないのだよ」
「結果論の話だっつの。赤司財閥のせいで、カズの親は死んだ」
「タイミングとしては、和成君の家族が一家心中を謀ったのは…間違いなくキミの両親が彼の両親を離職させ追い詰めたせいでしょうね、赤司君」
透き通る水色の瞳はボクを責めている訳ではないと分かっている。
只、事実を。大輝の言う通り事実を告げているだけに過ぎない。
ボクにとって最も残酷な現実を。
「和成っちが赤司っちのやったこと、知っても……まだ今のままでいられるんスかねぇ」
窓枠に背を預けていた涼太が静かに呟く。
その視線は、窓の外。
追うようにそちらを見れば、庭園で敦と楽しそうに笑い合う和成の姿があった。
その笑顔を視界にとめるだけで、ボクの心は仄かに温もりを帯び早鐘を打ち始める。
「よりにもよって、何故、アイツに好意を持ってしまったのか。オレには理解出来ん」
「それは……」
「運命とでも言うのか」
「……いいや、必然と呼ぶべきかな。あの笑顔に惹かれない者などいないよ、真太郎」
ボクの言葉を否定する者は、此処にはいなかった。
皆が一様に和成の笑顔を追いかける中、テツヤがもう一度、諭すような口調で告げる。
「赤司君、キミは……」
――――――――――
「せーいちゃんっ」
「和成、どうした?」
「ムッくんと庭師さんのお仕事見てたらね、咲いたばかりの花貰っちゃった!」
笑いながら差し出された花は薄紅の愛らしい花弁をしたアザレアだった。
嬉しそうにその小さな鉢植えを見つめる和成を優しく引き寄せれば、抵抗することもなくボクの腕のなかへと収まる。
「これね、征ちゃんにプレゼントしようと思って」
「え……?」
「いつも御義父様のお仕事の手伝い、頑張ってる征ちゃんへご褒美なのだよ」
「フ、それは、真太郎のマネか?」
笑いながらその頬に手を添える。滑らかな肌に沿うようにそっと顎へのラインを指で辿れば、和成は擽ったそうに目を臥せた。
その睫毛にキスを落とそうとしたとき。
ドアの方から静かに声を掛けられる。
「赤ちん、社長が呼んでる」
「……ああ、すまないな、敦」
「ん。高ちんは教養学の時間だから行くよー」
「はーい」
するりと。いとも容易くボクの元を離れていく和成。
振り返らずに敦と共に部屋を後にする背中に侘しさを覚える胸を叱咤し、自らも父のもとへと急いだ。
――――――――――
「……、今、何と仰ったのですか?」
「二度も同じ事を言わせるな征十郎。和成を巴里へ留学させると言ったんだ」
父の言葉に巧く返答出来なかったのは初めてだった。
口調こそ強く聞こえるが、機嫌は悪くないのだけは分かる。
「彼奴は情報処理能力もコミュニケイション能力も高い、そして何より害の無いような顔をして中々の狡猾さも持ち合わせている。大変に外交向きの人間だ」
よく、見ている。と素直に感心してしまう。
父が和成と顔を合わせた回数など数える程だというのに。
何も言えないままに只話を聴くことしか出来ない。
「何れ黄瀬と並ぶ他社との繋となるだろう。若い今の内に、外の世界を學ばせておく方が良い」
ふと、笑みを浮かべた後吐かれた科白に、感じたことの無いような不快感を覚えた。
「最初は征十郎がとんだ拾い物をしたと思っていたが……切り捨てた両親に似ず、有能な人材に育ちそうだな」
「……ッ」
カタンッ
「……ああ、何だ、居たのか」
その一言に、冷たい何かが背中を伝う。
振り返りたくない。
ドアの方から人の気配がする。
それはよく知る。
「社長、オレの話なら、呼んで下さったら良かったのに」
何故、笑っている?
そんな、仮面のような、笑顔を、見たくなかった。のに。
ああ、違う。
オマエにそんな顔をさせているのは、
ボクだ。