「あ、見てみて高ちん」
「んー?どした?」
空を指差したらすぐに空を見上げてくれる。
素直な高ちんに自然と頬が弛むのを感じながら、オレは空にぽっかり浮かんだ雲を指差した。
「あの雲、ソフトクリームみたいじゃね?」
「ほんとだ」
「お腹空いたー」
「じゃ、このまま駅前の方にソフトクリームでも食べにいこっか」
「うん」
すっと手を差し出したらすぐに重なる手のひら。
恋人同士のそれじゃなく、子供みたいに高ちんの手をぎゅってしたら少しだけびっくりしたような顔をしたけど、すぐにまたニッコリ笑って握り返してくれた。
「むっくん何味食べるー?」
「んー、チョコ……いや今だと期間限定巨峰味もあるでしょ?迷う……」
「じゃあオレが巨峰のやつ頼むわ、で、はんぶんこしよ」
「いいの?」
「もちろん!」
二人の間でゆらゆら揺れる繋がった手。
その手の温もりにまた顔が弛んだ。オレの表情筋ゆるゆるじゃんもう。
高ちんといると、あったかい日溜まりにいるような気分になれる。
でも。
それだけじゃなくて。
たまに自分でも引くくらい、心臓が焼けるように痛くなる。
繋いだ左手を持ち上げたら、高ちんの右手が一緒についてくる。
不思議そうに見上げてくる橙色の瞳を見つめ返して。
「むっくん?……、っ!」
その手首をそっと舐めた。
びっくりしたらしい高ちんの目がおっきく見開かれて、微かに漏れた甘い息を飲み込もうと顔を寄せたら。
ぐっと空いてる方の手で顔面を押し返された。痛い。
「ちょっと待った待った待った!!ここ街中!公共の場だから!!」
顔を真っ赤にしてそんなこと言われても説得力ないんだけど。と言葉にしたらたぶん拗ねてしばらく口をきいてくれなくなりそう。
くるり考えを巡らせて、オレは重なった手のひらを一度離した。
「……高ちん」
「な、なに」
「ソフトクリーム食べにいこ」
そうしてもっかい手を差し伸べるとほっと安心したように高ちんが息をつく。
空気にとけてく息は、やっぱりもったいない気がしたから。
名残惜しげに見つめたあと、今度は恋人がするように高ちんの指に自分のそれを絡めた。
「ね、むっくん」
「なにー?」
いつの間にか止まっていた歩を進め始めてすぐ。
名前を呼ばれて手を引かれたかと思うと、手首に柔らかい感触。
ちゅ、と微かなリップ音を残して、繋がった手は二人の間へと戻っていく。
「え、……高、ちん、いま、えっ?」
ボケっとしてたら悪戯っぽい笑顔を浮かべた高ちんが手を離して先に歩き出す。
オレは慌てて我に返った。
「さ、巨峰ソフト楽しみだなーっと」
「ちょっと、高ちん!ずるい、オレもする!」
「はっ?ダメだって!むっくん一回じゃ終わんないでしょ!てかここ公道!」
「高ちん!!」
走り出したらお互い本気になっちゃって。
結局駅前まで全力疾走したオレたちが、笑いながらソフトクリームをはんぶんこにしたのは、
もう少しだけあとの話。
(唇に隠された真意なんてない)
(ただ、ただ、君がだいすき)
(13/9/9)