『花びらに蜜をおとして』
普段、行動を共にしていて一切感じることはなかった。
巧く隠していたのか。
それともヤツ自身にそのつもりがなかったからか。
ふとした瞬間に溢れ出した蜜はそれから留まることを知らぬ泉のように沸きだし、枯れるところを知らない。
甘く、絡みつき、離さない。
オレ自身。離れることすら望んではいないのだが。
「真ちゃーん」
「……近いのだよ、高尾」
「なに?恥ずかしいの?今更?」
ニヤニヤと笑う高尾に一瞥くれてやるが特に何ということは無いとその笑みを深めるばかりだ。
気安く触れてくる指も、今となっては当然の権利を得ているかの如くオレの輪郭を辿る。
決して不快ではない。
そう、不快では無くなっている自分が、信じられない。
「ね、キスしよ」
「……、此処がどこかも分からなくなったのか貴様は」
「ヤだなー、ちゃんと分かってるって。ココは学校で教室で……でも、放課後で真ちゃんとオレしか残ってない、でしょ?」
するりと下唇を撫でられペンを持つ指が微かに震える。
高尾の口が妖艶な弧を描いてオレを誘う。
「……なぁ、緑間……ちょうだい?」
吐息が触れる程の距離。紡がれる名前。甘い言葉。
唯々自分には無縁だと思っていた。
求めるのも求められるのも。
そっとペンを置いたオレを見て高尾が笑う。
先程の色香は幻だったのかと思わせるくらいの、まるで、子供のように無邪気な笑顔のまま。
静かにその瞳を伏せる。
無防備に曝された唇に、オレはそっとキスを落とした。
(甘い蜜に浸されて、溺れる)
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