(三)
あれは、忘れもしない。
高校三年の夏の終わりだった。
「高尾、あれはどういうことなのだよ」
放課後、部活に向かう途中でそう尋ねてきた緑間は眉間にシワを寄せていて。
それはそれは不機嫌なご様子だった。
「え?あれってどれ?え、もしかして昨日のパスミスまだ根にもってんの??ヤダもー、真ちゃんってばしつこい男はモテないよ」
「茶化すな」
「ちょ、眉間眉間!シワちょう深くなってる!!」
「高尾」
あーあ。
黙って誤魔化されてくれればいいものを。
ほんとに、このエース様ときたら。どこまでもまっすぐなんだから。
「進路のことだ。オマエはいつからF大志望になったのだよ」
「ああ、言ってなかったっけ?」
我ながら胡散臭い小芝居だと思う。
けど、緑間さえ観客になっていてくれるなら、オレは全力で演じるから。
「オレ大学いったら独り暮らししようと思ってて。親戚がいい条件でマンション紹介してくれたんだよね。でもS大じゃ通うにも遠すぎるし」
「……っS大で、共にバスケをしようと言ったのはオマエじゃなかったか……?」
「ああ……真ちゃん、覚えててくれたのな、そんな口約束」
「……ッ」
そうやって、オレが浅く笑ったら。オマエが傷つくなんて知ってるんだよ。
「その話したの二年の秋くらいでしょ?よく覚えてたねー」
「……、高尾?」
「何かごめんな?でもオレもさ、真ちゃんが医者目指すって聴いてから色々考えてさ。やりたいこと見つかったから、F大行くほんとの理由はそれなんだよ」
ほんとに、ごめん。
こんな簡単に、オマエに嘘ついて、ごめん。
もう、二度としねえから。
傷つけたりもしない。
隣に立つことは、ないから。
だから。
「だから、バスケは高校でおしまいにする」
おねがい。
オレのバスケ生命の最期の瞬間までは、オマエの隣に居させてくれよ。
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