7/7 | ナノ


  (一)








夢をみた








世界は彩りに溢れ
目に映るすべてが
きらきらと輝いていた



不意に

一等鮮やかな緑が
視界に飛び込む

彼の手から放たれた球体が
美しい放物線を描いて
音もなく赤い円のなかへと
吸い込まれていった

胸が高鳴り、呼吸が速まる





「    」





名前を呼ぶ

転がる球体を掬い上げ
彼へと放つ



受け取った彼が微笑む








「高尾、目を離すな」








そうだ





オレは





視ていたかった








目を離すつもりなんて
なかったんだよ








真ちゃん













ガシャン!!





「ッ!!?」

「うわっ、悪い高尾!」

「……あ、あぁ……鈴本?何か落とした?」

「ほんとごめん!コーヒーいれてきたんだけど……!」





慌てて床にしゃがみこむのは同期のなかでもわりと気の合う男で。
彼の視線の先には、綺麗に二つに割れた緑のマグカップが落ちていた。





「珍しくボーッとしてたから眠気覚ましにと思って……ていうか高尾、調子悪いんじゃないのか?」

「あー……ちょっと寝不足でさ、ぶっちゃけ今寝てたわ」

「まじかよ」





床に散ったコーヒーを拭き取りながら笑うと、鈴本が困ったように眉を寄せる。





「顔色も良くないし、今日はもう帰った方がいいんじゃないか?……仕事増やしたオレの台詞じゃないけどさ」

「ぶは!イイ大人の男が泣きそうな顔すんなよ!」

「言うな!ていうかココ片付けるし、高尾、ほんともう帰んなよ」





仕事終わってんだろ?と尋ねられ、デスクをチラ、と見上げる。
確かにこなすべき仕事はとっくに片付いている。
ただ人のいない時間に来月末の会議用の書類をまとめておこうと残ってただけだ。





「……ん、そうするわ」

「送ろうか?」

「大丈夫大丈夫!サンキュな」





ヒラリと手を振って鞄を手にする。
最後に振り返ったとき。

彼の手にある緑色の欠片が、やたらとオレの心をざわつかせた。








もう何年も前の夢なんて。



とうに忘れたつもりでいたのにな。









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