7/7 | ナノ


  星にいのる(後)










「しんちゃん?」

「あ、ああ……どうした、高尾?」

「フフ、なに?珍しいね、真ちゃんがボーッとしてるなんて」

「五年前のことを、考えていたのだよ」

「……そう」





今、こうしてオレの前で柔らかく微笑むのは、ほんとうに高尾なのかと。
未だに不安になる時がある。



そっと手を伸ばせば、高尾は応えるようにオレに身を寄せた。





愛しい、愛惜しい。





ぎゅ、と力を籠めると胸元でわずかに身動ぐ。





「どーしたの?せっかくの誕生日なのにワガママ一つも言わないと思ったら、急に」





声で笑っているのが分かった。





「……な、覚えてる?高校のときはさ。一回も晴れなかったんだぜ」

「?」

「真ちゃんの誕生日。七夕」

「そうなのか」





オレの腕からするりと脱け出した高尾が、ベランダの方へと出ていく。
子供のように両手を広げて夜空を仰ぐ姿に自然と笑みが零れ。そっと後に続いた。

雲一つない満天の星空が、視界に広がる。





「すげー……あれ、天の川?」

「そうだな」

「じゃあアレが彦星であっちが織姫か!」

「逆だ。だからオマエはダメなのだよ高尾」

「ぶは!久しぶりに聞いたわそれ!」








その屈託ない笑顔を、五年間ずっと捜していた。








連絡しても繋がらず。

誰一人行方を知らない。

だがそれを高尾が望んでいるのかと思えば、それ以上オレが動くことなどできなかった。

研修中に病院で似た後ろ姿を見かけたとき、気のせいだと言い聞かせたこともある。



アイツがこんなところにいる筈がないと。



だから。





『緑間君。ボク、先日高尾君と会いましたよ』





黒子の一言に言い知れない感情を抱いたのは、言うまでもない。





『高尾君から逃げずに向き合うと誓うなら、教えてあげます』





その言葉にオレは躊躇い無く頷いた。



心が求めるものを、見ないフリなど出来ない。





今度こそ、アイツへ人事を尽くすと決めた。










「しーんちゃん、本日何度目のシンキングタイム?」

「……っ、すまない」

「いいよ、別に」





真ちゃんがこうして隣にいてくれるなら。

そう笑った高尾の瞼に、そっとキスを落とす。



擽ったそうに身を捩ってから、橙色の瞳が此方を見上げてくる。





「今、真ちゃんの目に映る世界に限りなく近い世界がオレにも視えてる、って思うとさ。悪くないよ、この目も」

「そうか」

「なんどもお願いしたんだぜ?年甲斐もなくお星さまなんかに」

「……星に?」

「そ、」





その明るい瞳に星を携えて。

高尾は空を見上げた。








「『どうか、もう一度、あの広い世界をオレにください』





『なんでもします。だから』





『真ちゃんと、もう一度、』」








最後まで言いきる前にその体を引き寄せ、腕のなかに閉じ込める。

お互いに何も言わず。



互いの体温だけを感じる。








「高尾」





どれだけの時間、そうしていたかなんて分からないが。
名前を呼べば、また、オレの姿が高尾の瞳に映し出される。





「オレは、オマエが好きだ」





この先、何度も告げるのだろう。

何度告げても、足りないのだろう。



この言葉を。





「しんちゃん」





「願うことで叶うなら、オレも星へと祈ろう」




「しん、ちゃん……っ」





「オマエが、いつのときも、幸せであるように。その幸せを、オレが与えることが出来るように」





涙を零すその瞳に、誓おう。





「この先もずっと、オマエの隣に、居させてほしいのだよ」








ゆっくりと頷いた高尾とキスを交わした。





オマエという存在以上の幸せを、オレはきっと知らない。














「星にいのる...end」








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