(七)
「ほんとうにオマエは自己評価が低すぎるところが昔からの欠点だな」
「へ?」
並んで歩く道程は、かつてオレが必死でチャリアを漕いでいたあの道。
街灯に照らされる緑間の横顔はぐんと大人びて、やっぱり自分ばっか置いてかれてんじゃないかとわずかな焦燥に駆られた。
「オレは……オマエが思ってたより、よっぽどフツーの男子コーコーセーだったんだよ」
「?」
向けられた視線に、笑みが零れる。
「オマエにオレを認めさせてやりたくて、必死になってるうちにその気持ちは絶対の信頼に変わって……その信頼が、いつの間にか恋に変わってた」
「……っ」
隣で緑間が息をのんだのが分かった。
そう、あの頃のオレは、オマエの横に立つのが当たり前のように思ってたんだ。
だけど。
「自分のこの目が失われる可能性を提示されたとき、真ちゃんに打ち明ける程の自信はオレにはなかったんだわ」
「なぜ、」
「好きだったから」
「……、高尾」
「ほんとに、好きだったんだよ、どうしようもねーくらい」
怖かった。
この視野が失われて、オレのバスケを奪われたら、もう。
緑間の隣には居られなくなるんじゃないかって。
「だから、自分から手放した」
無意識に俯いていた視界が、滲む。
あーあ。かっこわりーな、オレ。
「ま、それが結局、目を反らしてたってことで真ちゃんにさっき怒られ」
最後まで言い切る前に。
緑間に真正面から抱きしめられた。
ぶわっ、と。顔面に一気に熱が集まる。
「え、ちょ、しんちゃ……っ」
「すまなかった」
え。
「もっと、早くに、オマエに伝えていれば良かったのだよ」
なに言ってんの、真ちゃん。
言葉が声にならないまま、空気に融けていく。
抱きしめられた肩越しに夜空にぽっかり浮かぶ月が視えた。
「オレは、オマエよりとうに先に、オマエの事が好きだったのだよ」
「へっ?」
「……オレもただ、好きなヤツと同じ時間を共有したいと願っていたフツーの男子コーコーセーだった、ということだ」
「……しんちゃん」
なんだよ、それ。
込み上げる笑いに思わず肩を震わせたら、真ちゃんも珍しく声に出して笑った。
だから二人して、思いっきり笑いあった。
オレたちは、お互いに少しずつ勇気と言葉が足りなくて。
お互いがお互いを好きな、フツーの男子コーコーセーだったらしい。
「高尾」
「ん、なに?真ちゃん」
「……」
瞼に落ちてきたキスは、すごく優しくて。
やっぱりオレの視界を滲ませたけど。
「ね、真ちゃん。……オレもう、目を離したりしないよ」
「当然なのだよ」
ぜったい見失わない距離で。
より近くで。
オマエだけを視ているから。
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