「nameちゃーんこっち向いてー?」
って言われたから何事かと思って後ろを向いたら、パシャってシャッター音が響いた。つまり、撮られた。
「な、なにしてんの!?」
「うーん、とぼけた顔も可愛いねー」
一眼レフなんて持ってたのかダイゴは。ていうか、なに勝手に人を撮ってんだ!撮られるなら撮られるで心の準備が…。ちょっと恥ずかしくなった。そんな満足そうな顔で撮った写真を見ないでー!
「消してよね!」
「だめー」
だってnameちゃんの滅多に見られないカオだもの、ってまた私にカメラを向けた。
「…なんで写真を撮ろうってなったの?」
「んー、なんとなく」
全くこの御曹司の思考回路はどうなってるんだか。未だによく分からないのである。
「強いて言うなら…nameちゃんのいろんなとこを残しておこうと思ってね」
「なんで?」
「nameちゃんは思わない?僕を撮りたいって」
正直言うと写真には興味がない。興味がないというか、写真は特別な時を記録するためのものであるから普段こんな形で使うものじゃないって思ってる。例えば、イッシュの観覧車に乗った時の景色を残したい時とか、空にピカチュウ型の雲が浮かんでる時とか。
「あんまりないなー」
「そうか、それは残念」
ダイゴの感覚は『子どもの成長をカメラに納める』、この感覚と似てるんだろうな。私は子どもじゃないんだからもう。
「可愛い可愛いnameちゃんの笑顔を見るだけで元気になれるんだ」
それか、好きなモデルの写真集を見て心を満たす感覚。ダイゴの場合はどっち?
気がついたらダイゴは私の目の前にいた。
「nameちゃんは感情がすぐカオに出るから、どんな表情も逃したくないんだ」
「ん…っ」
「ほら、こうやってね…」
指で耳たぶをいじられて、そのまま首筋に降りてくる。くすぐったくて思わず目を閉じてしまった。
「こんな欲しそうなカオもたまらない。笑顔やとぼけた顔はずっと記録しておきたい。もちろん色っぽい顔もね。だけど、そんな色っぽい顔は、その瞬間だからこそ意味があると思うんだ」
そう言って唇に軽く触れるだけのキスをしたダイゴ。キスのあとは嬉しくて思わずにやけてしまう。条件反射ってやつ。
「ほら、その幸せそうな顔も。僕の目がシャッターだったら、いつでもnameちゃんの色んな顔をすぐに記録できるのになぁ」
そう言って私を胸板に引き寄せた。どこにそんな筋肉があるのって言いたくなる胸板にほっとする。安心感があると言うか、愛おしい。
「nameちゃん、どうしても撮りたい写真があるんだけど、いい?」
「へ?…んぅ」
またキスされた。そして右耳にシャッター音が入ってきた。ってことは、キスするところを撮ったということだ。さっきの軽いキスとは違うねちっこい長いキス。ダイゴの唇が私の唇に吸い付いてる。
「ふふふ、キスする写真が欲しかったんだよね」
「…全くもう」
「ほら、nameちゃん幸せそうな顔してるよ?」
画面に映る私の顔は笑顔だった。笑顔と言っても、口角が上がってるだけの笑顔。だけどダイゴの言う通り幸せそう、私。
いつも君といっしょに
(ずっとnameちゃんの笑顔がみたいからこれからもよろしく)
(何よ、改まっちゃって…)
(あ、照れてる)
(照れてない!)