LOVE AXEL-shinoh

遠い未来に出逢えたその時


『シンオウチャンピオンズリーグ決勝戦!使用ポケモンは6対6のフルバトル!さぁ、一体どんなポケモンでどんなバトルが繰り広げられるのか!』

 ここに来て言葉はいらない。ポケモンを戦わせて2人は会話をする。2人は最初のボールを手に取り、バトルフィールドに放った。

「行け!マニューラ!」
「魂より解き放たれ!ミカルゲ!」

 それぞれの1番手がフィールドに現れた。ヒロコはエースのマニューラ、シロナはふういんポケモンのミカルゲだ。要石の裂け目から紫色の霊魂が噴き出している出で立ちのポケモンだ。

(弱点のない、耐久力がそこそこあるミカルゲを最初に出すなんて、あたしの出方を窺ってるのね)
(いきなりマニューラだなんて、あの子、最初から全力ね)

『試合開始ぃぃ!!』

 戦いの火ぶたが切って落とされた。歓声が湧く中、最初に動いたのはマニューラだ。

「マニューラ!こおりのつぶて!」

 即座に飛び上がり、両手を振って氷の飛礫をミカルゲに投げつけた。

「あやしいかぜ!」

 しかし、その氷の飛礫はミカルゲから放たれた紫色の重たい風によって、全て落とされた。さすがだと思う反面、歯を食いしばる。

「シャドーボール!」

 今度はミカルゲの先制だ。ミカルゲから放たれたシャドーボールは、これまでのシャドーボール以上に重厚感があるように感じる。

「つじぎり!」

 ヒロコの声を聞いて、マニューラは物怖じせずシャドーボールに向かう。自慢のツメで切り裂かれたシャドーボールは真っ二つ。2ヶ所に着弾し、ドカンと煙が上がる。なかなか攻撃が相手に届かない。序盤からいきなり膠着状態だ。

(スピードもパワーも申し分ないわね。ソノオタウンで見たときよりもかなり強くなっている)

 きっと単純に攻撃してもヒットしないだろう。そう判断したシロナは、こちらから仕掛けることにした。

「ミカルゲ、おにび!」

 腕を前に出して命令した。ミカルゲの周りに青く揺らめく鬼火が精製され、マニューラに向かって放たれた。来たわね!とヒロコはニヤリと笑い、マニューラに「かげぶんしん!」と命令した。すると、ミカルゲを包囲するように数十体の分身が現れた。おにびが直撃したマニューラは分身のニセモノだ。

「…なるほど、そう来たのね」
「こおりのつぶて!」

 全ての分身が氷の飛礫を投げつけた。これで避け切れないだろうと踏んでいたが、チャンピオンリーグマスターはこれしきりのことでは動揺しなかった。即座に「まもる!」とミカルゲに命令し、全ての氷の飛礫をミカルゲは跳ね返した。ヒロコは思わず舌打ちする。

「ぎんいろのかぜ!」

 180度全ての方角にぎんいろのかぜを放った。こんな技巧ができるのは、チャンピオンに育て上げられたポケモンだからこそ。風は全ての分身にほぼ同時にヒット。苦手な虫タイプの技に、本物のマニューラがドサリと地面に落ちた。

「くっ」
「あくのはどう!」

 らせん状の悪の波動放たれた。と同時に、ヒロコがマニューラに「れいとうパンチ!」と命令すると、間髪入れず立ち上がり、地面を蹴った。まだ動ける体力が十分残っていたのだ。あくのはどうはマニューラがいた地面に当たっただけで終わる。そして、冷気を纏った右腕がミカルゲの要石に直撃した。

「ミカルゲ!」
「そのまま連続でつじぎり!」

 れいとうパンチでミカルゲを浮き上がらせたら、今度はつじぎりを何度も何度もお見舞いした。3発当てたところでミカルゲの気力がなくなり、力なく地面に落ちた。そして表情のようなものが浮かんでいた霊魂が、要石のヒビに吸い込まれる。ミカルゲの戦闘不能の証だ。

「ミカルゲ戦闘不能!マニューラの勝ち!」
『第1セットはチャレンジャー・ヒロコが取ったあぁ!これが四天王4人を倒した勢いだぁ!』

 要石に赤く細い光が当たる。そのままモンスターボールに吸い込まれた。シロナは「ご苦労さま」と、中に入ったミカルゲを労った。

(耐久の高いポケモンは基本的に素早さが遅い…。ヒロコはそれを利用した。そして一瞬で隙を作らせ一気に畳み込む…なるほど、四天王の4人が話していた通りね)

 一度彼女の勢いに飲み込まれると、反撃のチャンスが掴みにくくなる。今までヒロコと戦ったトレーナーたちが口を揃えて言う言葉の意味がようやく理解できた。そして、そのバトルスタイルを打ち崩すことができる次のポケモンが入ったボールを手に取る。

(なんとかミカルゲを倒せたけど、まだまだこれからが勝負!)

 マニューラもヒロコも次に出てくるポケモンのために、身を引き締める。

『さぁ、チャンピオンの次のポケモンは!?』
「果敢に諍え、ルカリオ!」

 ボールから現れたのは、はどうポケモンのルカリオだ。このルカリオにもヒロコは思い出がある。トバリシティジムリーダーのスモモ、鋼鉄島で会ったゲンがパートナーとしているポケモンだ。一瞬、ギンガ団のことが頭を過ぎった。

「はどうだん!」

 いきなりか!と感じ、技のスピードが速すぎてマニューラは対応しきれなかった。スモモやゲンのルカリオとは強さの桁が違う。吹っ飛ばされて壁に打ち付けられたマニューラを見て戦慄した。

「マニューラ戦闘不能!ルカリオの勝ち!」
『チャンピオンマスター・シロナも1体めを撃破!さぁ次はどう出るチャレンジャー!』

 「ありがとう」と言いながら、力なく床に落ちたマニューラをボールに戻した。激突した壁のひび割れから、ルカリオのはどうだんの威力がよく伝わってくる。

(さすがはシロナ。高火力高速ポケモンの弱点である低耐久を狙ってきたわね。してやられたわ)
(あなたもね。前にバトルしたときよりも、俄然自信に満ち溢れてる。戦っていて気持ちいいわ)

 目線だけで、お互いの気持ちがわかるようだ。それだけ、2人の心が通じ合い、本気で戦いたいと思っているということ。

「行け!ムウマージ!」

 ヒロコの2番手はムウマージだ。ゴーストタイプなので、ルカリオの強力なはどうだんは無効化される。そして格闘タイプとノーマルタイプの技の効果がないため、タイプ相性ではムウマージが断然有利だ。

「シャドーボール!」
「りゅうのはどう!」

 ムウマージはシャドーボールを放ち、ルカリオは両腕からドラゴンタイプの波導を放った。中央でぶつかり合ってしばらくせめぎ合っていたが、エネルギーが膨張して爆発が起きた。そこに発生した煙を引き裂くように、迎撃のシャドーボールがルカリオを直撃した。「速い!」と目を見張る刹那に「サイコキネシス!」と追い打ちが来た。

 ルカリオは体の自由が効かなくなった。動かそうにも超能力に縛り付けられて何もできない。シロナの体は無意識に前のめりになる。だが、無抵抗のままでは何も始まらない。そう考えたシロナはルカリオに命令した。

「ストーンエッジ!」

 主人であるシロナの声に気を取り戻したルカリオは、なんとかサイコキネシスを振り払って無数の岩の欠片をムウマージに放った。

「サイコキネシスを振り払った!?」

 あっという間にムウマージはストーンエッジに飲み込まれた。

「ムウマージ!」
「ラスターカノン!」

 次々と繰り出される技、このままではシロナの勢いに飲み込まれてしまいそうだ。腰を落としてラスターカノンのエネルギーを溜め始めたルカリオ。そんなわけにはいかないと、ヒロコが選んだのはこの技だ。

「かげぶんしん!」

 ムウマージは珍しく気合の籠った声を出して、先ほどのマニューラよりも多くの分身を作り出した。これではルカリオは狙いを定めることができない。ひとまず正面にいるムウマージにラスターカノンを発射したが、分身が虚しく消えるだけだった。厄介なかげぶんしんねと、次はシロナが歯を食いしばる。

「10まんボルト!」

 全ての分身が電撃を体に溜めこみ、全ての分身から10まんボルトが放たれた。避け切れなかったルカリオはあっという間に帯電し、電撃が収まったらその場に力なく倒れた。

「ルカリオ戦闘不能!ムウマージの勝ち!」

 よし!とヒロコは右手を握り締めガッツポーズ。これでチャンピオンよりも先に2体のポケモンを倒した。自分でも、自分が着実に強くなってきたのがわかる。この快感は、何度味わっても悪くない。



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